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箱根駅伝「青学大の山が強すぎる」問題…「平地は全く走れなくなる」選手が語った“特殊区間への覚悟”それでも「山に懸ける想いがあれば…」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJMPA
posted2025/01/04 11:03
ともに区間新記録をマークし、青学大の連覇に貢献した5区の若林宏樹(左)と6区の野村昭夢。なぜ青学大は毎年、山区間を「外さない」のだろうか?
無理もない。5区の若林から託された襷を胸に、箱根の山を滑るように下ってきたのだ。史上初の56分台(47秒)で、2位の中央大に3分49秒、3位の駒澤大に4分7秒もの大差をつけた。ライバルを1km以上突き放し、圧倒的なアドバンテージとして追撃する駒澤大をかわす最大の勝因になった。戦いを先読みしていた野村は明かす。
「山決戦になることはわかっていました。出雲駅伝と全日本大学駅伝が終わって、平地では少し青学が劣っているところがあって、勝てる区間は安定して昨年も走った山の5、6区だと思っていました。だから、56分台を出せばおのずと後ろも離れてくるだろうという考えで走っていました」
野村は強気なランナーである。
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昨年4月、チーム内で書き込む個人目標で6区の「56分台」とぶち上げた。前回は12秒差で区間2位。だから、今年の箱根駅伝10日前、あらためて原に宣言した。
「56分台を出します」
指揮官も「すごい。ものすごいヤツだ」
原の内心を聞こう。
「とぼけたこと、言ってましたから。そう簡単に出るもんじゃないぞと心の中で思っていたのですが、有言実行でした。かっこよかった。最後の最後までスピードが落ちることなく、後ろから車で見ていて『すごい。ものすごいヤツだ』と思いました」
この日、立役者だった若林はなにも持たずに会場を引き揚げた。
最優秀選手である金栗四三杯も、今年から新設された優勝チーム対象の大会MVPも、6区を走った野村が手中に収めたからだ。2冠の男は茶目っ気を交えて言う。
「若林も自分も狙っていたんです。若林が区間賞区間新を出して、アイツにMVPを獲られそうだなと思ったので、自分も区間賞区間新でやり返してやりました」
そう明かすと目じりを下げた。
原の深謀。若林の信念。野村の豪気。指揮官が整えた舞台を山の両雄が見事に演じきった。