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ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
「僕はセレモニーをしてもらうまでの選手になれなかった」大田泰示は静かにDeNAを去って…古巣コーチ就任へ「泥臭くやってこられたのが財産」
text by

石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byMiki Fukano
posted2024/12/26 17:04

すでにジャイアンツアカデミーのコーチとしての仕事も始めつつあり、取材は読売新聞ビルで行われた
「やっぱり自分の勝手な固定観念として、一流でありずっとレギュラーを張った選手がセレモニーをしてもらうものだと。そういった意味では、僕は何年もレギュラーだったわけでもないし、ベイスターズに拾ってもらってプレーしてきた身なので、頑張ってきたけどそこまでの選手じゃない。最後にファンの方々の前で挨拶をさせてもらえれば、ハマスタの演出はすごいでしょうし、いい思い出の1ページになるとは思うんですけど、自分はそこまでの選手になれなかった自覚があるので……」
そんなことないですよ、と言おうと思ったが、プライドを持って懸命に日々生きてきた人間に、とやかく言えることではないと言葉を飲み込んだ。
16年間プロをつづけられたわけ
通算成績は、907試合、718安打、84本塁打、343打点、打率.259。トータルとして一見すれば凡庸なスタッツかもしれないが、プロ野球選手として強烈な魅力や人間力が高くなければ、16年間もプロ生活をつづけることはできない。
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「ただの負けず嫌いなんですよ。僕は負けることで気持ちが強くなるし、もっと鍛え直さなきゃって思うんです。で、その目標に対し遠回りだったかもしれないけど、しっかりと向かって歩んでいけたというのが、この16年間で掴み取ったものだと思います。つまずきそうになっても『やっぱ無理だ』と一度も思わなかったのは自分の中では大きかった」
泥臭い野球人生
敬意を込めて、泥臭い野球人生でしたね、と伝えると大田は声を上げて笑った。
「はい、泥臭くやってきましたし、携わってくれた監督、コーチ、選手、スタッフの方々も泥臭い人が多かったので、そういう人たちと一緒に歩めたのも僕の財産ですよ」
打席でも守備でも、そしてベンチでも衆目を集めた独特のオーラ。ひたむきな姿勢、情感がほとばしるプレーの数々。一度たりとも諦めることなく戦いつづけた16年間――。
大きなプレッシャーの中、もがき苦しみ戦いつづけた巨人時代、才能を開花させた日本ハム時代、そしてハマスタの夜空に響き渡った「ヨコハマサイコー!」の絶叫を、ファンは決して忘れることはないだろう。ダイナミックなプレーで野球の本質的な魅力と面白さを体現することのできた稀有な選手のこれからに、幸多かれと思わずにはいられない。
〈全2回の2回目〉
