「ドヘニー選手が、完全に出てこない、と。これじゃ自分から行くにしても、情報が足りていないと思ったんじゃないですかね。パンチ力そのものと軌道をもうちょっと見たいと、考えたのではないでしょうか。ジャッジ2人がドヘニー選手を支持する採点になり、確かに評価が分かれるラウンドではある。でも前足の位置を右、左と挑発するように置き換えて、ドヘニーがガードを下げた途端に右を見舞った場面や、残り10秒を切ったところでは強いパンチを2発打っていますよね。主導権はこっちにあるよとジャッジにアピールするとともに、次のラウンドで調子づかせないように、相手に対する威圧にもなりました。

　4ラウンドには1分を過ぎたところで、ドヘニー選手がいきなり左を放ってきた場面がありました。これ、この日のために用意してきたパンチだと思うんです。あのスピードとあの位置なら普通は当たるはず。でもこれも尚弥選手はかわして逆に合わせようとする。この3、4ラウンドでパンチの威力も軌道も、用意してきたパンチも出させたうえで封じ切った。ドヘニー選手からしたら“これもダメか”って内心、思ったに違いありません」

ドヘニーの近距離からの渾身の左をかわす井上©︎Hiroaki Yamaguchi

モンスターの次なるアクションとは？

　4ラウンドも最後はコーナーに追い詰めての右。3、4ラウンドはジャッジ2者がドヘニーを10―9としているが、挑戦者が追い上げているようには映らなかった。

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　4ラウンドを終えてコーナーに戻った井上は椅子に座らずに立ったままだった。何とか突破口を見いだそうとする挑戦者の情報を引き出させ、インプット完了と言わんばかり。モンスターが次なるアクションを起こしていく。

＜後編に続く＞