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井上尚弥“KOショー寸前”で37歳ドヘニーに異変…会場騒然“まさかの結末”までに何があった?「イノウエに戦略を変更させた」ドヘニー陣営の言い分
posted2024/09/04 17:24
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
スーパーバンタム級4団体統一戦が9月3日、東京・有明アリーナで行われ、4団体統一チャンピオンの井上尚弥(大橋)がWBO2位の挑戦者、元IBF王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)に7回16秒TKO勝ちした。最後はドヘニーの負傷による棄権というあっけない幕切れとなったが、そこに至るまでにはさまざまな駆け引きがあった。モンスターの4団体統一戦をあらためて振り返りたい。
ドヘニーの異変「6回に腰を痛めて…」会場は騒然
「みなさんの満足するような、期待するような試合ではなかったと思いますが、長くやっていればこういう試合もある」
4本のベルトを守った王者が勝利者インタビューで口にしたセリフがすべてだった。「さあ、これから井上が倒しにいく」と思われた7回。井上が右ストレートを放った直後、ドヘニーがどこかを痛めたように動きを突如止める。畳みかけた井上にグローブで「待った」のポーズを取ると、足を引きずるように歩いてひざまずき、そのまま棄権。客席から「えーっ!」の声が上がるまさかの結末となった。
試合後、会見したドヘニー陣営のマイク・アルタムラ・プロモーターによると、「6回に腰にパンチが当たって腰の神経を痛めた。7回に痛みが悪化した」とのこと。確かに6回終了間際、チャンピオンの連打を浴びたドヘニーがゴングと同時に腰を押さえて何かをアピールしている姿があったのだが……。
井上にとってはこれまで何度も経験してきた「圧倒的有利」と言われる試合だった。さらに5月の東京ドーム大会に4万3000人の観衆を集め、“悪役”ルイス・ネリ(メキシコ)を叩きのめした直後の試合である。普通の選手ならモチベーションが落ちてもおかしくない局面だが、父の真吾トレーナーが「井上家は(ドヘニーを)過小評価していない」と言うように、井上はいつも以上に気持ちを引き締めていた。