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ボクシングPRESSBACK NUMBER
ドヘニーは本当に“井上尚弥の挑戦者”にふさわしかったのか?「10年前に大舞台を迎えていたら…」英国人記者が37歳のベテランに賛辞を送る理由
posted2024/09/05 17:07
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
“全階級最強のボクサー”と称されるようになった井上尚弥(大橋)が最新の防衛戦を無事にクリアした。9月3日、有明アリーナで行われたWBC、WBAスーパー、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一戦で元IBF世界スーパーバンタム級王者TJ・ドヘニー(アイルランド)に7回TKO勝ち。戦績を28戦全勝(25KO)と伸ばし、31歳となった“モンスター”の快進撃は続いている。
最終的には腰のケガで棄権を余儀なくされたドヘニー。37歳の大ベテランボクサーが試合後、自力では歩けず、両肩を支えられてリングを去る退場シーンはインパクトがあった。普段の井上のKOほどの迫力はなくとも、今戦の結末はまた別の意味で語り継がれていくのかもしれない。
この試合内容と結末をどう受け取るべきなのか。終了後、リングマガジンの元編集人であり、現在はスポーティングニュースで健筆を振るう英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。軽量級、アジアのボクシングにも精通するグレイ氏は少々意外にも、この日のドヘニーの戦いぶりに高評価も与えていた。
〈全2回の2回目/以下、グレイ氏の一人語り〉
冷静に動き回ったサウスポーの挑戦者
井上戦でのドヘニーは巨大なアンダードッグだったにもかかわらず、個人的にはいい戦いをしたと思いました。サウスポーの挑戦者は冷静に動き回り、左パンチを打ち込む機会を探していました。左こそが彼のシグネチャーパンチであり、実際に井上に警戒を促すだけの威力があったのです。また、右ジャブからボディに左のパンチを伸ばし、その後に顔面にコンビネーションを放つなど、攻め方には工夫が感じられました。
サウスポー対オーソドックスの戦いではあることですが、ドヘニーは右足で相手の前足を踏むことで井上を苛立たせてもいました。接近戦でも“モンスター”の強打を恐れず、落ち着いた戦いを遂行し、ベテランらしい巧さを随所に見せてくれていたと思います。
結果として、第3、4ラウンドとジャッジがドヘニーにポイントを与えたのはご存知の通り。私の個人採点でも3回はドヘニーのラウンドと見ました。井上がこんなふうにラウンドを奪われることはそれほど頻繁にはありません。