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藤田菜七子27歳、永野猛蔵22歳が引退の“異常事態”…「騎手のスマホ不正使用」本当の問題点とは何か?「たかがスマホという感覚でいる限り…」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byGetty Images
posted2024/11/20 17:01
10月11日付で騎手を引退した藤田菜七子(27歳)。競馬界で相次ぐ「スマホの不正使用」の問題点はどこにあるのか
詳述すると長くなるので簡単にまとめると、明治時代の終わり、東京の池上競馬場などで日本人が主催する競馬で馬券が売られ、大盛況となった。競馬ブームが訪れたのだ。しかし、主催者の不手際や、馬券で家を潰す者が現れるなど社会問題になり、馬券の発売が国に禁じられた。収入源を絶たれた競馬関係者は苦境に陥った。その状況を打破すべく「日本競馬の父」と呼ばれた安田伊左衛門が自ら衆議院議員となって馬券復活運動をつづけ、大正時代に帝国議会で競馬法が可決され、馬券の発売が合法になった。
博打は御法度の我が国で、先人たちが長年苦労してやっと通した競馬法のおかげで、日本は世界最高額の馬券売上げを誇るまでになったのだ。昨年、2023年は、その競馬法制定100年を記念する重要な年だったのだが、既述のように、ルールを守らない騎手が出てしまった。
関係者が「たかがスマホ」という感覚でいる限り…
よく「たかがスマホで騎手を辞めるなんてもったいない」という声を聞く。確かに藤田も永野も非常に惜しい才能だが、辞めさせられたわけではなく、自ら騎手免許の取消を申請したのだ。それに、「たかがスマホ」というが、競馬法をもとに競馬を施行している日本では、原資となる馬券の合法的な発売の根幹に関わる重大な問題なのである。「海外ではレース前のスマホ通信は禁じられていないのに日本だけ厳しいのはおかしい」という声もあるが、それが許されるのは、競馬以外のギャンブルも認められている国だからか、あるいは馬券が発売されていない国だからだ。その理屈を日本に当てはめることはできない。
関係者が「たかがスマホ」という感覚でいる限り、また同様のことが繰り返されるのではないか。レースを控えた騎手にとっては「たかがスマホ」ではないから、「重大な非行」とみなされ、重い処分が下されるのである。
ヨーロッパの競馬主催者にとって「お客様」というと馬主という感覚だろうが、日本で「お客様」というと、馬券を買うファンである。ファンは、自分の楽しみのために金を賭けているわけだが、同時に、「命の次に大事」とまで言う人もいる金を、主催者に、いや、レースに預けている、という感覚でもあるはずだ。不信感を抱かずに金を預けられるような状況が望まれる。ギャンブルという、いかがわしいイメージがついて回るものだからこそ、厳正で公正な運用が求められるのだ。