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大会名は「連帯」…水害支援を名目に開催されるMotoGP最終決戦の地がバルセロナに決まるまでの混乱の舞台裏
posted2024/11/07 11:03
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
先週行われた第19戦マレーシアGPは、MotoGPクラスでタイトルを争う総合首位のホルヘ・マルティンと総合2位のフランチェスコ・バニャイアの壮絶な戦いとなり、バニャイアが勝ち、タイトル決定は最終戦へと持ち越されることになった。
コース上の熱い戦いと並行するように、パドックではもうひとつのストーリーが展開されていた。それは「最終戦の舞台がどこになるのか」ということ。スペイン東部を襲った大雨と洪水の影響でバレンシア州が大きな被害を受け、最終戦バレンシアGPの舞台となるリカルド・トルモ・サーキット周辺も道路が分断された。レースの開催は不可能となり、マレーシアGP初日の金曜日(11月1日)に正式に中止が決定されたからだ。
そして決勝レースが行われた日曜日(11月3日)の午前中に、運営団体のドルナ・スポーツは3クラスのチームマネージャーを招集し、スペインのバルセロナ(カタルーニャ・サーキット)で代替開催することを通達。当日にも正式発表されると言われていたが、大雨と洪水の被害がスペイン各地に広がっていることに対する配慮、さらにカタルーニャ州政府からの開催の承認を待っている状態だったこともあり、マレーシアGPから2日後の11月5日になって正式にバルセロナ開催が発表された。
大会名は「モチュール・ソリダリティ・グランプリ・オブ・バルセロナ」に決まった。「ソリダリティ」という言葉には、大きな被害に見舞われたバレンシア州との「連帯」の意味が込められており、被災地バレンシアへの支援を目的として開催されることになった。
開催地決定の理由には、バルセロナがドルナの運営部隊の本拠地でありスタッフの手配などがスムーズに行えること、またタイヤを供給するピレリ(Moto2、Moto3)とミシュラン(MotoGP)がバレンシアとほぼ同じタイヤで対応できること、さらにガソリンの輸送が容易なことなど、開催に向けて問題がないことなどが挙げられる。チームやドルナの機材などは、マレーシアGPを終えた段階でMotoGPの空輸を担当するカタール航空の本拠地ドーハに一時留め置きされており、開催決定を受けバルセロナへ輸送されることになった。
次々と消えゆく代替候補
こうして、最終的な舞台としてバルセロナに決まるまでには、裏側で様々なことが検討されていた。
当初もっとも有力だったのは、マレーシアGPが開催されていたセパン・インターナショナル・サーキットで、2週間後に再度開催するというものだった。しかし、最大の問題はタイヤと燃料の調達と輸送。タイヤメーカーは熱帯の国マレーシア用のタイヤを2週間後までに準備できず、燃料も船での運搬となるため時間的に難しいということで候補から消滅した。