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「ああ、猪木だ。スゲー、猪木が来た」驚きの初来店…アントニオ猪木が愛した“コーヒーの名店”秘話「カウンターの一番端に座り、小さい声で…」 

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原悦生

原悦生Essei Hara

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posted2024/10/01 11:02

「ああ、猪木だ。スゲー、猪木が来た」驚きの初来店…アントニオ猪木が愛した“コーヒーの名店”秘話「カウンターの一番端に座り、小さい声で…」<Number Web> photograph by Essei Hara

アントニオ猪木は晩年ランブルにやってくるようになり、林不二彦さんが淹れるコーヒーを愛した

なぜ猪木はランブルのコーヒーを愛したのか

 ランブルには世界中からコーヒー好きが集まってくる。いまでは、8割から9割が海外からの客だという。2009年にはニューヨーク・タイムズの日曜版に写真入りで紹介されたこともある。この日も中国からやってきた女性がカウンターに座り、間近で林さんのドリップする技を熱心に見つめていた。

「私は流れで手伝うようになっただけですが、お客さんに『世界一おいしかった』とか言ってもらえるとうれしい。気に入ったら滞在中、毎日来てくれるお客さんもいる。顔も覚えちゃいますね。ずっと同じのを飲む人も、違うのを試したいという人も。コロナがあけて、4年ぶり、5年ぶりってみんな帰ってきてくれた。うれしい。やっていてよかったなあと思う。毎年、クリスマスにしか来ないカナダからのご夫妻。ドイツ・ミュンヘンでバーをやっている人。ウチじゃないと飲めないものもいっぱいあるから。他では飲めない高い豆も頑張って買っていますので、ウチが買わないと日本に入ってこなくなる。そういうのが飲めるのはうれしい特権かな。まだ、これはサンプルなんですけれど、すごく高い豆です。こんなのもあるんですよ」(智美さん)

 ビンの蓋を開けると、ワインのような香りが漂ってきた。コーヒーへのたしかな情熱と、落ち着いた空間。そういったところに、猪木も惹かれたのだろうか。

 焙煎の様子を見せてもらった。

「いたってシンプルで、下に火がついていてぐるぐる回っているだけです。これはオールドビーンズの生豆。豆と言っていますけれど種ですから、青臭い感じがしますね」とやや緑色を帯びた豆を掌に乗せて、スタッフの中西直人さんが説明してくれた。

「浅く焙煎すると酸味が出て、だんだん煎っていくと黒くなって苦みが出てくる。ローストは店によって違うんです。キリマンジャロは苦いとかすっぱいとかいうのはおかしいんですよ。中煎りはすっぱい。ローストの度合いによって変わりますから、国によって、というわけではないんです」

 焙煎機は古いものも置いてあって、いまだに現役だという。

「前は一袋が60キロだったんですけれど、運ぶの大変でしょうね。今はハーフの30キロが多いです」(中西さん)

 猪木もブラジルで60キロの袋を担いでいたのだろう。「ブラジルのコーヒー豆」の詩の情景が、ふたたび目に浮かんだ。

<「猪木が愛した焼き鳥」編とあわせてお読みください>

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「猪木が秘書になってくれと言っている」燃える闘魂がホレた“福岡の老舗”とは?「後追いしそうに…アントニオ猪木がすべてなので」店主が語る猪木愛

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