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「藤井(聡太)さんも言ってましたけど…」「結果も内容もすごく悪い」永瀬拓矢32歳が王座戦連敗後、悔やみつつ語った「人間らしさ」とは
posted2024/09/26 06:03
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Keiji Ishikawa
いくら考えてもその後に…
「先手が4筋に香を打ってくる手(81手目)は自然ではないような気がしたので、事前にはあまり掘り下げませんでした。本線は左銀を6七に引く手で、それがいちばん頑張った手だと思ったのでそちらをメーンに調べてしまった。対策不足でしたね」
王座戦第2局直後、電話インタビューに応じてくれた永瀬はこう悔やんでいた。
そう、藤井は81手目に銀取りを手抜いて香を打ち、攻め合いを選択したのだ。ただ銀を取られた手が王手になり、藤井は玉を逃がす一手なので、また永瀬が好きな手を指すことができる。銀を取らせるとは何と強気なのか。
それでも形勢は互角だ。いくら事前に研究が行き届かなかったとはいえ、正着を指せば形勢のバランスは保たれる。永瀬は長考に沈んだ。次に王手で銀を取り、藤井が七段目に玉を上がって王手をかわす。ここまでは誰が指してもそうなるが、その後の手が難しいのだ。
「銀を取れれば嬉しいと思っていたのですが、いくら考えてもその後にしっくりとした手がなくて長考になりました」
銀を取った後、永瀬は8筋の歩を突き捨ててから4筋の香の前に歩を打って1マスつり上げた。それから自陣の右銀を5四の地点に腰掛けたのだが、ここで形勢を損ねた可能性が高い。7筋の歩を桂取りに突き出される手が厳しかったからだ。
永瀬はこの歩の突き出しを「指しにくいと思っていた」と明かす。桂を8五に跳ねる手を誘発しており、歩で取ると銀で4五の香を取る。先手がそれを銀で取ると、8五に飛車を走る手がいわゆる十字飛車になるからだ。だが銀で香を取った時に7筋の歩を成り捨てる手があり、金で取ると後手玉が薄くなる。8五に桂を跳ねる手が利かないことが一つの誤算だった。
藤井さんも言ってましたけど、この将棋は
では永瀬はどうすればよかったのか。
88手目に銀を腰掛けた手では8八の地点に歩を打つ手が有力だと感想戦で調べられたが、永瀬はあまり関心がなさそうだった。