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永瀬拓矢32歳、70分超の電話取材で本音を思わず口に…「藤井(聡太)さんを人間として見てはいけないんです」「これが最後かもしれませんよ」

posted2024/09/26 06:05

 
永瀬拓矢32歳、70分超の電話取材で本音を思わず口に…「藤井(聡太)さんを人間として見てはいけないんです」「これが最後かもしれませんよ」<Number Web> photograph by Shintaro Okawa

王座戦第2局終局直後の一コマ。藤井聡太七冠との感想戦で表情を崩す永瀬拓矢九段

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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Shintaro Okawa

 第72期王座戦五番勝負は藤井聡太七冠(22)に、昨年まで同タイトルを保持した永瀬拓矢九段(32)が挑む構図となっている。第2局を取材した記者が、旧知の永瀬から対局直後に70分以上にもわたる電話インタビューに成功した。その中で語られた衝撃的な言葉とは。〈NumberWebノンフィクション/全3回の第3回〉

藤井さんを人間と見てはいけないんですよ

「時間がたつとどうしても和服が着崩れするんですけど、ここをこうすれば絶対に脱げることはない、と和服の構造がわかるようになったんです。でも私はそれを残念だなと思ったんですよ」

 王座戦第2局直後、永瀬に電話で話を聞いていると、唐突に本人が和服について切り出した。

 私は思わず、「ええ? なぜですか?」と問い返していた。

「私が自分の頭をよくしようと思ったのは、和服の構造を理解するためじゃないんです。わかりますか? 将棋のために頭をよくしたかったのに、いろいろなことに対してバランスよく能力を上げてしまって、一般人レベルの生活ができるようになってしまった(笑)。そこがちょっと悲しかったんです」

 しかし、それは人間としての成長であり、一般的には幸せなことではないか。もちろん永瀬もそんなことはわかっている。

「人間としては一流になれるかもしれませんけど、将棋の超一流にはなれないのかもしれないと思うようになりましたね。人間らしさで勝負するのは、対人間なら通用するでしょう。でも藤井さんを人間と見てはいけないんですよ。やっぱり藤井さんみたいな超一流になるには、将棋だけに没頭していた頃に戻らなきゃいけない。なんというか、その頃って漆黒の世界にいたような感じなんです。でも自分はその後、人間らしくなったというか、彩のある世界を知りました。知った後でまた元の世界に戻れるのかどうか」

「今日人生が終わっても…」そんな気持ちで指せていなかった

 戻ることに怖さはないのか。

「若い頃の自分は、何かを掴もうとしていました。本当に必死だったから、谷底のような暗いところが自分の居場所でも怖くなかった。というより、そこしか知らなかったんです。でも今日の対局を終えて思ったのは、私は今の地位に満足してしまっているんだなと」

 今年は元日から1日も休みを取らず、対局日以外はほとんど練習将棋に費やしている永瀬が? 誰よりも強くなりたいと希求して盤上に向かっている永瀬が? にわかには信じられなかった。

【次ページ】 ロングインタビュー、最後かもしれませんよ

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