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藤井聡太“八冠達成”から1年後「前例は参考にしてないので」再戦で連敗直後、記者の電話に応じた永瀬拓矢の口調は“意外と暗くなかった”…なぜ?
posted2024/09/26 06:02
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Shintaro Okawa
王座戦五番勝負は藤井聡太七冠(22)に、昨年まで同タイトルを保持した永瀬拓矢九段(32)が挑む構図となっている。第2局を取材した記者が、旧知の永瀬から対局直後に75分以上にもわたる電話インタビューに成功した。そこで語られた衝撃的な言葉とは——。〈NumberWebノンフィクション/全3回の第1回〉
八冠達成から1年後、雪辱戦のつらい結果
敗北という結果は昨年と同じだったが、内容はまるで違っていた。
藤井聡太王座の地元である愛知県で9月18日に行われた第72期王座戦第2局は、永瀬拓矢九段の完敗に終わった。これで藤井の2連勝。昨年のリベンジマッチと意気込んで臨んだ永瀬にとってはつらい結果である。
前期王座戦の名古屋対局は第3局で、永瀬が会心の指し回しを見せていた。力勝負から機敏に仕掛けてペースを握り、優勢から勝勢に持って行った。永瀬勝利の可能性が高いと聞いた報道陣は対局フロアのエレベータホールで待機していた。その時、スマートフォンでモバイル中継を見ていた誰かが「逆転だ!」と叫んだのは忘れられない。藤井渾身の勝負手に永瀬が誤り、最終盤で痛恨の逆転負けを喫したのだ。
今年は逆転の予兆すらなかった。藤井先手で角換わりになり、序盤から凄まじい速さで進んでいく。驚いたファンもいるだろうが、2人にとってはかなり深い部分まで「定跡」になっている。
ところが、である。
前例から離れ、永瀬が右銀を5四の地点に腰掛けるとAI(人工知能)による後手の評価値が急落した。桂頭の弱点を突かれ、その後は先手に自然に攻められてしまった。午後5時の夕食休憩時点では藤井がはっきりと優位に立っており、永瀬が局面をひっくり返すような要素は浮かんでこない。藤井の残り時間が少なければ逆転の可能性は高まるが、たっぷり1時間半近くも残している。
フラッシュインタビューでは普段より声色が暗かった
午後7時48分、永瀬は正座に直って静かに投了を告げた。