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ネリの首がロープに…なぜ井上尚弥“戦慄のTKO”は生まれたか? “怪物と最も拳を交えた男”黒田雅之が語る「尚弥選手のパンチは異常に重い」―2024年上半期読まれた記事 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/09/20 17:00

ネリの首がロープに…なぜ井上尚弥“戦慄のTKO”は生まれたか? “怪物と最も拳を交えた男”黒田雅之が語る「尚弥選手のパンチは異常に重い」―2024年上半期読まれた記事<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ネリを3度ダウンさせた井上尚弥の拳。黒田雅之は、井上ならではの“重さ”に秘密があるという

衝撃のKOパンチ「あんなふうに倒れるなんて、と驚きました」

6ラウンド、右アッパーから、フックとストレートの間のような、コンパクトな右のパンチを顔面へ。ネリは首をロープに打ちつけ、崩れ落ちた。戦慄のTKO。倒され、倒して、最後は絶大なインパクトを残した。

――右のダブルですね。アッパーから、最後は振り抜くというより、ちょこんと当てたようなパンチにも映ります。

「ダブルの2発目で、あんなふうに倒れるなんて、と驚きました。尚弥選手は体の使い方がうまいし、グローブの重さをダメージに変えるテクニックもすごくあると思うんです」

――グローブの重さをですか?

「はい、もし、ボクサーが素手でパンチを打ったとしても相手はそんなに倒れないと思うんです。でも、グローブの重さがプラスされて、よりダメージを与えるというか、脳が揺れやすい状態になるというか。彼がバンタム級に上げてからスパーしたときは、14オンスのグローブで軽くポンと打ってくる彼のジャブが異常なくらい重かった。その感覚って、グローブの重さが加わっているように感じたんです。拳、バンデージ、それにプラスして試合用の8オンスグローブの力を対戦相手に伝える技術。それがすごく高いと思う」

――他の選手からも「グローブの重さ」を感じることはあるんでしょうか。

「たまにいます。逆に、この選手、全然グローブの重さを使えていないなという人もいます。僕はそれを割と意識していました。グローブの遠心力を加えるというか、尚弥選手の最後のダウンはまさにそういう感じでした」

井上尚弥のパンチはなぜあれほど重いのか?

――コンパクトに見えるパンチが、あれだけ効くとは驚きました。

「グローブの重さに加えて、尚弥選手はパンチの力の集中させ具合というんですか。それがもの凄くうまい。一番力が伝わるところに当てるんです」

黒田さんはいくつか例を挙げた。たとえば、サッカーボールで、真ん中を蹴れば、力が伝わり遠くまで飛ぶ。だが、右や左にずれれば、力は逃げてしまう。蹴る場所によって、ボールへの力の伝わり方が違ってくる。

――単にパンチを当てるのではなく、一番効くところに当てるということですね。

「相手も動いているから、なかなか力が伝わるところに当たらない。でも、尚弥選手は力が伝わるポイントにしっかり当てる。その技術を感じます。それが彼のいう『当て勘』なのかもしれません。最後、軽く打っているように見えても、あのネリ選手の倒れ方はそういうことなのかなと思います。もちろん、元々のパンチ力があってのことですが」

【次ページ】 「あくまで、一ファンとしての思いですが…」

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