箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「箱根駅伝は呪いなんです」…“箱根を走れなかった”元ランナー→漫画編集者が「人気ジャンルではない」スポーツ漫画を立ち上げたワケ
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by(L)本人提供、(R)蒼井ミハル
posted2024/09/16 06:04
現在はヒット作も多く担当する漫画編集者になった鍵谷亮さん。それでも箱根路への想いは消えず、駅伝漫画を立ち上げたという
多忙な日々を送り、世にブームを起こすようなヒット作も手掛けた。自分の中に燻ぶる熱の新たな持って行き先を、見つけたようにも見える。それでも、在りし日の箱根路への想いが消えることはなかったという。
「他のチームメイトからは『陸上と同じくらい打ち込めるものが見つけられて羨ましい』という話はされました。でも、やっぱり夢を叶えられなかったという事実は何年経っても完全には埋まらないんです」
鍵谷は今年で35歳になるが、30代に入るまでは本気で「大学に編入して社会人で箱根路を目指す」ことも考えていたという。
「本当に呪いみたいなものですね、箱根駅伝は。僕はあと一歩で出られなかったから、いまだに心にひっかかりがあります。こうなると、もう一生逃れられないと思う。逆に出られた選手には、あの強烈なスポットライトの味を忘れられない人も多い。特に青学大が出て来てからはより一層、人気に拍車がかかった。メディアは得をしていると思いますけど、原(晋)監督がやった功績であり、残した呪縛でしょうね」
満を持して立ち上げた「駅伝テーマ」の漫画
鍵谷は昨年8月、自身が原作を手がける駅伝をテーマにした連載を立ち上げた。
いくつかの例外的なメガヒット作品を除けば、そもそもスポーツのジャンルは現在の漫画界ではいわゆる「売れ線」ではない。これまでは流行を分析し、時勢に合わせた「売れる確率の高い」ジャンルを狙って作る編集者だっただけに、未開の分野に飛び込んだ格好にもなった。
「駅伝って日本ではあんなに人気があるのに、まだ社会現象になるような漫画作品って生まれていないんですよね。自分は選手として憧れていた舞台で走れなかった。だからこそ込められる熱がある。そこに賭けたんです」
漫画編集者として成功できたフィールドを飛び出し、あえて未知数のスポーツものにチャレンジする――それは、傍から見れば必要のないギャンブルにも思える。
それでもやらずにはいられなかった。
叶わなかった夢は、いつまでたっても人を縛り続ける呪いなのかもしれない。それはスポーツの持つ光であり、影でもある。鍵谷の呪縛はまだ、解けていない。
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