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「箱根駅伝は呪いなんです」…“箱根を走れなかった”元ランナー→漫画編集者が「人気ジャンルではない」スポーツ漫画を立ち上げたワケ
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by(L)本人提供、(R)蒼井ミハル
posted2024/09/16 06:04
現在はヒット作も多く担当する漫画編集者になった鍵谷亮さん。それでも箱根路への想いは消えず、駅伝漫画を立ち上げたという
良くも悪くもスポーツだけに打ち込んできた十数年間を取り返すように、鍵谷は仕事に没頭した。もちろんその裏には4年間焦がれ続けた箱根路に出られなかったことへのルサンチマンも多分にあった。
「やっぱり卒業して3~4年は箱根関連の番組、何も見られなかったですね。辛かったですよ、自分が立てなかった夢舞台ですから。仕事してればそういう情報もある程度、シャットアウトできるので(笑)」
「競技で培った能力」が仕事に活きる?
一方で、作家とともに漫画作品を手掛ける中で、陸上競技に打ち込んでいた時代の経験は至るところに活きたという。
「例えば漫画をヒットさせるには、当然どういう要素がいるのかを作家さんに説明できないといけないわけです。それをちゃんと言語化して伝えないといけない。その言語化能力は、まさに大学までの陸上競技で、『いま自分がどういう状況なのか』を監督やコーチに説明する時と同じなんですよね」
また、強豪チーム特有の目標クリアのための方法論も役立った。
「箱根出場という目的があるなら、そのためにどんな要素がいるのか細分化して課題をひとつずつクリアしないといけないですよね。漫画もそれと同じで、面白くなるにはどんなエッセンスがいるのか。売れる作品になるにはどんなポイントを押さえないといけないのか。そういう部分の解像度を上げていくことで、より分かりやすく漫画家さんにも説明できるようになりました」
鍵谷は「大学時代はその目標が達成できませんでしたけど」と嘯くが、そういった思考をもとに「努力の仕方を知っている」ということこそが強みでもあるのだろう。
「スポーツと同じで“いま何が必要なのか”、それを徹底的に分析して明確にし、補う努力ができれば、ヒットする確率は格段に上がりますから」
最初の出版社に6年間勤めた後、鍵谷はソーシャルゲームをメインに事業展開する会社が立ち上げた漫画部門に転職した。そこでは数百万部を記録するようなヒット作や、ドラマ化作品も数多く手がけた。現在は3年前から大手出版社の編集者が立ち上げた漫画ベンチャー企業「COMIC ROOM」の一員として活躍している。