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「本当は打撃のチームを作りたいけど」京都国際監督が覗かせた本音…低反発バット元年の甲子園で見えた課題に、今こそ「リーグ戦」の検討を
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/27 11:05
京都国際は、中崎と西村(写真)という2枚の左投手で最後まで守り勝った
「今年に関してはプロではなく甲子園に行くという思いが強かった。だから割り切りやすかったんです。3年生は仲良かったですから、彼らを甲子園につれて行きたいし、甲子園に行けば甲子園練習でベンチに入れない選手も土を踏める。勝ち進めば国体に行ける可能性もある。長くみんなと野球ができる。だから今年は『勝ち』に特化しました。
今後については僕のロマンというか、夢でもありますけど、すごい選手を育てながらチームの結果に反映していくことは目指していきたい。こういうふうに勝つことに徹した方がチームとしては勝つんですけど、選手の思い、夢や希望があります。プロに行きたい、甲子園に行きたいというのがあって、それぞれに、じゃ、こうしていこう、と。一人一人に向き合って、その道に近づける努力は我々大人がしてやらないといけない」
小牧監督に「かつての育成路線はどうするのか」という意味を込めて、今後について尋ねたところこう話してくれた。この言葉を聞きながら改めて感じたのは、育成と勝つことの両立の難しさだ。「勝つことに徹した方が勝ちやすい」という言葉は高校野球の問題点を浮き彫りにする。
「負けられる」環境の重要性
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その問題点とは高校野球の大会の多くがトーナメント戦で行われている、という事実である。負けたら即敗退。この環境で試合を展開していくことが、どれだけ野球を小さくさせてしまうかを考えなければいけない。
バットが飛ばないという条件で、攻撃的な野球をするチームが敗退してしまうならば、守備的にシフトする。そう考えてしまうのは、負けてはいけない中での勝利を目指さなければいけないからだ。
健康面の理由からバットの規格を変更した今だからこそ、高校生が、いや、それを束ねる指導者が、負けることを恐れないチームづくりができるような環境が、必要なのではないか。高校野球界も、そろそろリーグ戦を導入すべきだろう。
負けられない戦い、一発勝負のトーナメントはハラハラ・ドキドキする。そこにドラマがあるのは事実だが、高校生が伸びやかに育つ環境という面もこれからは考えなければいけない。もちろん、それは夏の大会をリーグ戦にすべきだという話ではない。秋・春・夏と3大会あるうちのいくつかを削って、「負けられる」環境を作ることこそが、高校野球界の発展につながるのではないかと思う。