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「怪しすぎ…」「出来レースっぽい」柔道“疑惑のルーレット”…なぜ日本人に不信感を抱かせた?「ボタンを押したのは私達じゃない」フランス柔道トップは主張 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2024/08/06 19:30

「怪しすぎ…」「出来レースっぽい」柔道“疑惑のルーレット”…なぜ日本人に不信感を抱かせた?「ボタンを押したのは私達じゃない」フランス柔道トップは主張<Number Web> photograph by AFLO

ルーレットが「+90kg」で止まった瞬間。パリ市内のパブリックビューイング会場ではフランスファンが熱狂した

 スポーツの実施は、公平を旨とする。

 男子バレーボール準々決勝、日本はイタリアとフルセットの死闘を演じたが(もし、日本が勝っていたら1972年のミュンヘンオリンピック準決勝、ブルガリア戦以来の傑作中の傑作になるところだった)、1セットごとにコートチェンジをし、第5セットはどちらかのチームが8点取ったところでもコートを入れ替える。

 会場の空調が試合内容に影響を与えるバドミントンの場合はよりセンシティブだから、コートを替え、屋外競技の場合は太陽の光の加減や風向きがプレーに影響を及ぼすから、前後半でエンドを入れ替えて公平性を担保する。

 また、試合前のコイントスは、選手たちが介入する余地を排除し公平性を担保する。主審がコインをフリップするので、チーム側は運に委ねるしかない。

 それでいうと、野球で先攻・後攻を決めるジャンケンは「駆け引き」が入るため、私は首肯できない。主将同士が過去にジャンケン対決をしていた場合、そこに「読み」が介入する余地があり、心理的駆け引きが発生するからだ。できれば、審判によるコイントスの方が望ましいと思う(日本はなんだかんだジャンケン文化なのだ)。

「透明のボウル」サッカーやラグビーの場合

 なにも試合に関することばかりではない。サッカーやラグビーのワールドカップでの抽選でも公平性を担保する努力が最大限なされている。

 近年は、グループ分けをする際には世界ランキングを参考にして、まずは参加国を「ポット」に振り分ける。2022年のサッカー・ワールドカップを例にとると、参加32カ国をポット1からポット4に分ける。開催国とFIFAランキングの上位7カ国がポット1となり、グループステージでいきなり強豪チーム同士や同じ地域の国が一緒にならないように配慮されている。

 そして実際の抽選では、透明のボウルに国名の紙が入った球(ガチャガチャのケースのようなもの)があり、それを偉い人たちが引いていく。

 ここで重要なのは、公平性を担保するために、透明のボウルを使っていることだ。

 外からは見えない箱を使った場合、「温度が違う球が入っているらしい」とか、「ザラザラしていて、材質が違う球があるらしいよ」とか、憶測を呼びかねない。

 これすべて、細工はしていませんよ、というアピールであり、これは主催者の説明責任を果たすことにつながる。

「ルーレットのボタンを押すのは我々ではない」

 こうして見てくると、公平性を担保するためには、第三者の「人の手」を介することが重要であることが分かる。

【次ページ】 「ルーレットのボタンを押すのは我々ではない」

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