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「金メダル最有力候補」須崎優衣25歳まさかの初戦敗退…いったいなぜ?「あれ、展開が動かない…」レスリング会場で記者が感じた“ある異変”
posted2024/08/07 17:35
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Getty Images
いったい何が起こったのか。
3対2でビネシュ・フォガト(インド)の手が上げられても、すぐに心の整理をつけることはできなかった。現地時間8月6日、パリ五輪のレスリング競技2日目。女子50kg級の須崎優衣が初戦で敗れるという大波乱が待ち受けていた。
「無敵の24連続優勝」絶対的強者だった須崎優衣
須崎は言わずと知れた2021年の東京五輪同級の金メダリストだ。ずば抜けた実力と明るいキャラクターで、多くのメディアに取り上げられる存在になった。東京からの3年間は得意の英会話を駆使して海外武者修行を繰り広げ、今春にはレスリングやMMAの強豪をあまた輩出することで知られているダゲスタン共和国にも足を運び、腕を磨いた。
「街を歩いていると『東京の金メダリストじゃないか』とよく声をかけられました」
しかも25歳の須崎はいまがいくつめかのピークといえるほどの強さを見せており、今年4月のアジア選手権を終えた時点で、国際大会で24連続優勝を成し遂げている。外国人選手との対戦成績は94戦無敗というレコードをマークしていた。
もちろんパリでは“優勝の大本命”の呼び声が高く、組み合わせが決まってからも五輪連覇の声は大きくなるばかりだった。他競技を含めても、これほどまでに金メダル獲得が有力視されていた日本人選手はいなかったのではないか。あえてライバルの視点に立てば、「誰も須崎の行く手を阻めないだろう」という見方が多かったように思う。
とはいえ、勝負の世界に絶対はない。レスリングより先に同じ会場で実施された柔道では、女子52kg級の阿部詩が2回戦でまさかの敗北を喫している。大会前、いったい誰が阿部の早期敗退を予想できたというのか。
同じように、須崎にも思わぬ罠が待ち受けていた。近年、ビネシュは1階級上の53kg級を主戦場にしてきた選手で、五輪には2016年のリオデジャネイロから3大会連続の出場だった。前回の東京大会は53kg級で9位に終わっている。