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「引退発表」朝倉未来“衝撃のKO負け”はなぜ起きた? 平本蓮の“完勝だった138秒間”、RIZINの公開喧嘩が生んだ「リアルな現実」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2024/07/29 13:30

「引退発表」朝倉未来“衝撃のKO負け”はなぜ起きた? 平本蓮の“完勝だった138秒間”、RIZINの公開喧嘩が生んだ「リアルな現実」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

平本蓮の左ストレートが朝倉未来の顔面を捉えた瞬間

なぜ公開喧嘩は「平本蓮の完勝」になったのか?

 この試合は完全決着を促すべく、通常の5分3ラウンドではなく5分5ラウンドの特別ルール。けれど試合は1ラウンド138秒で終わった。もちろん試合時間が短いほど差があるというわけではないのだが、内容的にも完勝なのは間違いなかった。たとえば、テイクダウンをめぐる攻防だ。

 平本はK-1という立ち技打撃格闘技からMMAに転向してきた。未来もストライカータイプなのだがタックルも使いこなし、オールラウンド寄り。未来が勝つための定石はテイクダウンすることで、平本の生命線はテイクダウンディフェンス=寝技に持ち込まれないことだ。

 “待ち”のスタンスでタックルを切りながら打撃を当てていくのが、MMAでの平本の必勝パターン。誰もがそう思っていたのだが、今回は違った。タックルをディフェンスするのではなく、タックルそのものをさせなかったのだ。

「距離感の微妙な設定ですね。常に朝倉未来がやりたい距離よりも遠くで試合を進めました」

 長丁場を意識しながら、1ラウンドにも必ずチャンスが来ると踏んでもいた。様子見から徐々に攻撃のテンポを上げて、最後は飛び込んでの左ストレートから左右のラッシュ、そしてパウンド連打。これまでのような“待ち”の闘いではなく自ら圧力をかけてねじ伏せた。

試合後の平本が語った「勝因」とは

 そこにあったのは、自分のファイトスタイルを常にアップデートしていく意識だ。

「練習の中でも、どうしても“待ち”になってしまうことは理解していて。技術を積み上げていくと、リスクを減らすために後手になってしまう。それだと自分の武器である(打撃の)回転数が上がらないというのも意識してました」

 MMAで負けないためには、まずテイクダウンディフェンス。しかしそこに注力すると打撃が十分には活かせない。

「テイクダウンディフェンスが完成したから、今回の(距離を支配する)形ができました」

 今回は“待ち”ではなく“我慢勝負”と独自の表現も使った平本。MMAでの初KO勝利がこの大舞台になったのも「プラン通り」だと笑ってみせた。

「まず3勝して、そこからKOを解禁しようと思ってたので」

 いや本気なのか何なのかは分からない。でも平本は実際にそうしたし、自身の課題と向き合い、それをクリアして勝ったのだった。

「これからも強くなっていく平本蓮を見せていきたい」

【次ページ】 引退撤回はなし…それだけ重い敗北だった

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