濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

「引退発表」朝倉未来“衝撃のKO負け”はなぜ起きた? 平本蓮の“完勝だった138秒間”、RIZINの公開喧嘩が生んだ「リアルな現実」

posted2024/07/29 13:30

 
「引退発表」朝倉未来“衝撃のKO負け”はなぜ起きた? 平本蓮の“完勝だった138秒間”、RIZINの公開喧嘩が生んだ「リアルな現実」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

平本蓮の左ストレートが朝倉未来の顔面を捉えた瞬間

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

PROFILE

photograph by

RIZIN FF Susumu Nagao

 さいたまスーパーアリーナに4万8117人の大観衆を集めた格闘技イベント、その原動力であるメインの一戦は“喧嘩”として組まれた。“最強決定戦”ではなかった。

 7月28日の『超RIZIN.3』。客席可動式の会場で、格闘技として15年ぶりの「スタジアムバージョン」開催となった。前回は2009年の魔裟斗引退試合をメインとする大会だった。

 今回のメインは朝倉未来vs.平本蓮。日本で最も有名、かつ影響力のあるMMAファイター同士の対戦と言っていいだろう。チケットは完売し、取材陣には大入袋が配られた。PPVの売上も、CEOの榊原信行によるとRIZINの歴史において圧倒的トップだったという。

 繰り返すが、この試合はRIZINでの最強決定戦ではなかった。2人ともチャンピオンでも、タイトル戦線の上位選手でもなかった。しかし彼らには“ドラマ”、あるいは“因縁”があった。

朝倉未来が掲げていた「負けたら引退」宣言

 未来は“不良格闘技”THE OUTSIDERから弟の海とともに成り上がった。YouTuberとしても成功すると、プロデュースする“1分間格闘技”BreakingDownも大ヒット。ファイターとしてだけでなくネットセレブリティとして揺るぎない地位を築いている。ただ、RIZINのベルトを手にすることはできていない。

 そんな未来に絡みまくってきたのが平本だ。K-1のトップ戦線で活躍すると、2020年にRIZINでMMAデビュー。実績で大きな差のある未来に噛みついた。未来も平本のポテンシャルを認めつつこき下ろす。

 時には平本がやりすぎることもあった。フロイド・メイウェザーとのボクシングルール戦でKOされた未来が脳のダメージを訴えると、それすらも揶揄したのだ。

 今回は未来が「負けたら引退」を宣言すると、自分もそうするとアピール。負けるわけがないと強気だったが、試合が近づくと前言撤回。またタレントの手越祐也による試合前の国家独唱が発表されると、SNSのDMで辞退を求めた。しかもそれを公開。結果、手越は出演をとりやめている。

4万8000人の前で「2分18秒の決着」

 国歌独唱の時間でリングに上がってからの集中力を削がれたくないという選手の気持ちはよく分かる(未来も国歌独唱じたいに反対していた)。とはいえ話し合う相手はRIZINの運営のはずで、手越へのDM(とその公開)はまったくの筋違い。平本にはしばしば“盛り上げるためなら何やっても構わない”といった悪質さを感じさせられてきた。未来のファンとしては、平本を“成敗”してほしかったはずだ。

 逆に平本ファンからすると、生意気な悪童が“セレブ”の未来を倒すほど痛快なことはない。SNSの使い方はタチが悪い平本も、こと格闘技に関しては純粋だ。技術や練習での取り組みについて語る時、その姿は真摯そのもの。

 4万8000人の前での公開喧嘩でも、平本は“格闘家”としての成長ぶりを見せた。未来も戦前から練習での手応えを語っていたのだが、結果は平本の1ラウンドKO勝利。未来が23戦目、平本が(MMA)3勝3敗の7戦目だからビッグ・アップセットと言っていい。それも2分18秒という短時間の決着だった。

【次ページ】 なぜ公開喧嘩は「平本蓮の完勝」になったのか?

1 2 3 NEXT
#朝倉未来
#平本蓮
#榊原信行

格闘技の前後の記事

ページトップ