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「ボクサーとして格が上がった」那須川天心、会心の3回TKO劇…元世界王者・飯田覚士がうなった“驚異のスピード”とは?「十分世界を狙える」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/07/23 17:02
WBA世界バンタム級4位のロドリゲスに3回TKO勝利を収め、かめはめ波のポーズをとる那須川天心
「言葉にするなら処理スピードとでも言うんでしょうか。相手の状況を把握したうえで自分から(アクションを)起こす。そのスピードが上がれば上がるほど相対的に相手が遅く見える。それを示したシーンが2ラウンド終盤でした。(相手の顔の位置が)射程距離に入るや否や左ストレートをガツンと当ててロドリゲス選手は腰を落としたわけです。するとダウンを取ったと判断して後ろを向こうと体を半身にした。結局、踏ん張ったと分かってもう一度向き直して攻め込むのですが、ダウンを取ったと一瞬で判断して後ろを向こうとするところが何よりも処理スピードの速さを物語っています。普通、あんなふうに体を持っていけませんから」
瞬間的に半身になりながらも、またも瞬間的に体を戻す。まったくタイムロスになっておらず、那須川はそのままコーナーに追い詰めて連打で再び腰を落とさせる。ダウン寸前まで追い込むと、飯田をさらにうならせたのが3ラウンドのフィニッシュシーンになる。
処理スピードがおそろしく速い
ワンツーで大きくぐらつかせてからのコンビネーション。左ボディーを当ててから、左アッパー、もう一度左ボディー。それでも中を固めるロドリゲスに対して右フックを顔面に見舞い、開いたガードの隙間に左ストレートを浴びせてロープに吹っ飛ばしたのだ。
「ああいうコンビネーションの場合、トレーナーのミットやサンドバッグで打ち込んで体に染み込んだ練習の反復が出ることが多い。でも那須川選手の場合は、1発当ててから状況を把握したうえで次に最適なパンチをセレクトして打っている。アッパーを2発打っているのも相手の体勢が変わらなかったのでもう1発同じパンチを打っているんです。見ては次、見ては次。処理スピードがおそろしく速いから、あれができるんです」
飯田はため息混じりにそう言った。
腰を据えたことでの波及効果はほかにもある。
パンチが立体的で三次元的に
飯田はフィニッシュの前、ワンツーを浴びせたシーンに着目した。右のジャブでガードを開けてから体重を乗せた左を打ち込んだ場面である。
「サウスポーの那須川選手からすれば右のジャブを打つ際、オーソドックスのロドリゲス選手の左ガードが目の前にあるので邪魔。この手をパンチで払いのけて真っ直ぐストレートを当てるっていうのはよくあります。でもこのとき、そのリードジャブの軌道を(内側から外側に)曲げてガードの隙間を通しておいてから、ストレートも同様にして当てているんです。このような曲線的に打ち込みができるのも下半身の強さと上半身の柔らかさがあるからこそ。かつ、デビュー戦は相手との距離という一次元的な意味では素晴らしかった。その次は二次元的になって、今回は完全に立体的に(攻撃を)つなげていく三次元的になっていました。腰の据わりが可能にした一つだと感じます」