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“藤井聡太くん大泣き”から10年後「公式戦初対局」までの物語…「高校を自主退学して将棋に専念」伊藤匠と藤井聡太の共通点とは
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS/Takuya Sugiyama
posted2024/06/21 06:00
伊藤匠新叡王と藤井聡太七冠。“藤井世代”が今後の将棋界をどう引っ張っていくか
伊藤は2018年度前期から三段リーグに出場した。以後の4期のうちで12勝6敗が最高成績で、昇段争いに入れなかった。そして、5期目に15勝3敗の抜群の成績を挙げ、2020年9月に17歳11カ月で四段に昇段して棋士になった。
四段昇段時の決意、NHK杯での「非凡な着想」
伊藤は『将棋世界』誌に「四段昇段の記」を書いた。その一節を紹介する。
《初段の時に同学年の棋士が誕生した。そこからの彼の活躍は凄まじく、こちらも意識せざるを得なかった。彼はいつ見ても勝っていて、その度に自分が情けなく思えたが、早く上がらなければ、と刺激になった。いまはだいぶ離されているが、いつか大きい舞台で対戦してみたいと思う》
「彼」とは藤井のこと。小学生時代の好敵手を、ずっと意識し続けていたのだ。
伊藤は奨励会時代に貯えた実力を発揮し、公式戦で好成績を収めた。2021年度の勝率は8割1分8厘(45勝10敗)。藤井の8割1分2厘(52勝12敗)を少し上回り、伊藤は勝率部門で1位になった。4年連続で勝率1位だった藤井の記録を止めた。
伊藤は「1年を通して大きく崩れることなく、結果を残せてよかったです」と語った。
前期の新人王戦で優勝した伊藤四段は、昨年12月にその記念対局で藤井竜王と対戦した。それは非公式戦で、藤井が勝った。
そして22年9月、NHK杯戦の藤井五冠-伊藤五段戦が公式戦での初対局となった。
両者は流行している「雁木」の囲いをともに組んだ。藤井の先攻に対して、伊藤も反撃して激戦となった。中盤で伊藤が角を捨てて攻め込むと、解説者の渡辺名人は「伊藤五段はけっこう過激な棋風なんですね」と驚いていた。しかし、成果をあげることにはならず、将棋ソフトの評価数値は《80-20》前後を示して、藤井有利の形勢になっていた。
渡辺は、伊藤が攻めをいったん緩めた一手を「非凡な着想」と評し、「ソフトの評価ほど藤井がいいとは思えない」と解説した。実際に伊藤は藤井の玉に肉迫し、形勢は接近したと思われた。しかし、藤井が終盤で巧みに寄せて勝った。
藤井と伊藤の現状は「横綱と十両」にあたるが
藤井と伊藤の現在の立場は、大相撲の力士に例えると「横綱」と「十両」の違いに当たる。今後、伊藤が実力を伸ばしてさらに活躍すれば、藤井と対戦する機会はあるだろう。そのときは「金星」を期待したい。なお、伊藤は今期棋王戦で準決勝に進出し、藤井は一方の山で準々決勝に進出している。
ここからは藤井の過去5期のNHK杯戦の成績を挙げてみる。