核心にシュートを!BACK NUMBER
「引退後、家族でゆっくり過ごす予定ですか?」質問に岡崎慎司の妻が話した答えは…家庭にもピッチの仲間にも“岡ちゃん”が愛されるワケ
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/06/03 17:02
マインツ時代の岡崎慎司。ドイツの地でゴールを量産するとともに、今も昔も現地の仲間に愛されていた
「自分は『記憶』の方が大事かなとも思うんですけど……ただそんな数字が記録として出てくるのは、(努力の成果として)後からついてくるものだと思うので。やはり、両方ほしいですね」
貪欲さを武器に戦ってきたストライカーはそう語っているのだが、「記録」を積み上げてきたからこそ、「記憶の人」になるケースが出てきた。
シント・トロイデンには、ファティ・カヤというドイツ人選手がいる(今シーズン末で退団)。ポジションは岡崎と同じセンターフォワードだ。
彼は件の引退試合で岡崎と交代でピッチに立ち、胸のすくようなゴールを決めた。そのゴールを決めたあと、彼はベンチに走った。そして、岡崎を探し出し、強く抱きしめた。試合後にも、抱擁を繰り返している。
本来であれば、カヤと岡崎は同じポジションを争うライバルだ。
僕はシンジに渡したことがあるんです!
では一体なぜ、あそこまで喜び、岡崎の元へと駆け寄ったのか。
それは、彼にとって岡崎が特別な存在だからだろう。岡崎はこのチームにやってきてから、カヤから声をかけられた。
「もちろん覚えていないでしょうけど、僕はアナタが出た試合のボールボーイをしたことがあるんですよ!」
カヤはマインツのユースでキャリアをスタートさせた選手なのだ。ドイツでは、クラブのユースの選手たちがボールボーイを務めることが多い。そして、カヤがそんな誇らしい役割を担っていたとき、マインツのトップチームのエースとして君臨していたのが岡崎だった。
カヤの記憶の解像度は高い。きっと、当時のエピソードを何度も自慢してきたからだろう。
「あれはフランクフルトとのダービーマッチだったんですけどね。僕はサイドラインから出たボールを拾って、シンジさんに渡したことがあるんです!」
センターフォワードの彼にとって、クラブ史上最多ゴールを決めた「記録の人」はアイドルだった。だから、「記憶の人」として岡崎は認識されている。
選手でたどり着けなかったところに、次のキャリアで…
シント・トロイデンをはじめ、日本人選手が多くプレーするベルギーリーグで、日本代表で多くの記録を残してきた岡崎がリスペクトを受けるのは当然だ。ただ、それ以外にも、カヤのように岡崎に憧れるサッカー選手が多いことを忘れてはならない。スペインでも小さなクラブであるウエスカでの奮闘を覚えている者はいる。
「記憶の人」として終わるだけの可能性があったなかで、ただひたすらに「記録」を残すために走り続けた。「記憶の人」としての生き方も、「記録の人」としての人生も、「両方ほしい」と考える貪欲なアスリートだからこそ、それは可能だったのだ。
引退後は指導者の道に進む予定だ。岡崎は晴れ晴れとした表情で断言している。