濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「他の選手はケガしちゃうんじゃないですか」選手の本音…RIZINで行われた“素手ボクシング”の是非「結局はやりたいか、やりたくないか」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/05/04 17:03
篠塚辰樹のパンチがJ.マルチネスに直撃。RIZIN初のベナックルファイトは1分33秒のKO決着となった
ケンカのような闘いではなく、ボクシングだった
ダーティーボクシング(相手を片手で掴んでのパンチ)が認められるベアナックルファイト独自のルールの中で、篠塚は巧みに闘っていた。
ゴング直後、マルチネスがラッシュをかけようとするとクリンチで防ぐ。そこから自分の体勢を作ってパンチの打ち合いへ。だが荒っぽい展開はそこまで。篠塚にペースをもたらしたのはジャブだった。
有利に試合を進めたところで、フィニッシュは右ストレート。ベアナックルであってもケンカのような闘いではなく、あくまでボクシングだった。まずはジャブから、が鉄則なのだ。
中継の解説を務めた高阪剛は、篠塚の闘いぶりについて「技術ですね、まっすぐ真ん中を狙って打っていた」とコメントしている。
ベアナックルファイトは単純に「グローブなし」というだけでなく拳頭部分(ナックル)をバンデージで保護することが禁止されている。そのため“当たりどころ”が悪いと殴ったほうが拳をケガしてしまう危険性があるのだ。
格闘技の世界には「デコ受け」という言葉も。額から前頭部にかけての硬い部分でパンチを受けるとダメージが軽減され、相手が拳を傷める可能性がある。篠塚はそうならず、拳を正確に相手のアゴに打ち込んでみせた。
出場選手の声「みんなが適応できるものじゃない」
もちろん本邦初公開のベアナックルファイトが“技術の勝利”に終わったからといって、この競技を万人向けと言うことはできない。見るにしてもやるにしても、人を選ぶだろう。敗れはしたが今後もベアナックルの試合を続けたいというマルチネスは、こう言っている。
「ベアナックルはスリルの一言。飛行機から飛び降りるくらい最高の気分になるんだ。他とはスリルの次元が違うし、みんなが適応できるものじゃない。自分はやりたいからやっている。結局はやりたいか、やりたくないか。それだけの話だよ」
確かにそういう面はあるだろう。日本でもベアナックルファイトが継続され、いずれ“顔面ボコボコ”の試合が展開されたらより大きな話題になるのは間違いないし、同時に拒否反応も凄まじいものになる。
ただ、である。ベアナックルファイト日本初披露の試合での篠塚の闘いは“野蛮な暴力”以外の要素を感じさせてくれた。素手の殴り合いで勝つにも、必要とされる技術や戦略があるのだと。篠塚が語った、グローブ着用の闘いとの違いも興味深かった。
「(パンチは)グローブのほうが見やすいです。素手のほうが小さいから見にくい。でも小さいから拳1個分の動きでよけられるので」