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スリルと興奮はすさまじいが…流血もあったRIZIN“素手ボクシング”は本当に安全か?「グローブ着用よりもダメージは少ない」という主張も
posted2024/05/06 17:02
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
ここは地下闘技場か。
『RIZIN.46』(4月29日・有明アリーナ)で行われた篠塚辰樹とJ.マルチネスによるベアナックル・ボクシングマッチを目の当たりにして、そんな思いにかられた。
篠塚のジャブでマルチネスの顔は変形し…
もともと、素手によるボクシングは欧米で非合法で行われていたものであり、表立ったところでやれるものではなかったのだから無理もない。警察の追跡から逃れに逃れ、会場変更を繰り返してようやく開催にこぎつけていた。会場は世間の目が届きにくい地下や倉庫などのスペースに落ち着く。アメリカならアスレチック・コミッションの権力が行き届かないインディアン居留地が多かった。
ベアナックル・ボクシングの別名はプライズファイティング。イギリスを中心に行われ、近代ボクシングの原型となった立ち技格闘技である。時代が進むにつれ、近代ボクシングの興隆に押されるかのようにボクシング界の裏側に追いやられたのは“あまりにも残酷なファイト”と見なされたからだろう。
時間が経つにつれ、劣勢に立たされた選手の目は潰れ、頬や鼻はあらぬ方向に膨れ上がり、顔面は血まみれ。まるで「ストリートファイトでボコボコにされたら、こうなるだろう」という見本のようだ。
ボクシンググローブを着用していたら、こうはならない。中に入っている緩衝材のおかげで、ベアナックルに比べれば裂傷や内出血などの外傷を負うリスクは極端に低くなるからだ。
案の定、篠塚のジャブを食らい続けたマルチネスの顔面はどんどん変形していった。アンコの部分が薄いオープンフィンガーグローブで殴られてもベアナックルに近いダメージがあるが、むき出しの裸拳の外傷リスクとはやはり比べ物にならない。
有明アリーナに駆けつけた観客の声援もすさまじいものが感じられた。篠塚の当てさせずに打つ戦法がハマればハマるほど、声援のボルテージは大きくなっていく。まるでアクション映画の格闘シーンを見ているかのように。これは公開のストリートファイトではないか。そんな印象さえ受けた。このとき会場はMMAでもキックボクシングでも味わえない、新しい興奮に満ちていた。