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「マニアを相手にするのではなく…」TAJIRIが語る九州プロレスの“常識を覆す”経営論…元WWE戦士が“プロレスNPO”所属を選んだ理由 

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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posted2024/04/28 17:03

「マニアを相手にするのではなく…」TAJIRIが語る九州プロレスの“常識を覆す”経営論…元WWE戦士が“プロレスNPO”所属を選んだ理由<Number Web> photograph by Gantz Horie

九州プロレスに所属するプロレスラーのTAJIRIにインタビュー

プロレス界の常識を覆す「協賛金が収入源」

 九州プロレスは年間約50大会を開催。その他、高齢者施設、障がい者施設、児童養護施設などへの慰問を積極的に行っているが、驚くべきことにすべての大会は原則入場料が無料。その時点で、完全にこれまでのプロレスの常識を覆している。

「九州プロレスが大会のほとんどを入場料無料にできているのは、支援してくださる企業の皆さんからいただく協賛金が収入源になっているからです。そういう形を筑前さんが構築したところがすごくないですか。協賛企業さんは通算で1000社を超えたらしいです。もうチケット券売頼りの団体運営って日本では限界なのではないかと。プロレスファンの数は限られているし、券売目当てだと収入だって安定しないし。協賛をいただいて、多くの人に観てもらう九州プロレスのシステムは素晴らしいと思います」

 それを可能にしているのは、レスラーも含む正社員たちの営業努力だ。

「九州プロレスの営業活動は、今まで見てきた団体と比べても『これだけやったらどこでも入るな』っていうぐらいやってると思います。営業社員は九州各地の企業さんを一日じゅう回って。レスラーが営業に同行することもあります。大会前にはその地区の小学校、保育園、幼稚園すべてにチラシも送るんです。しかも、どこどこ小学校は1年生が◯人、2年生が◯人いるなら、ちゃんとその数のチラシを選手が分けて全部送るんです。さらに地元の幼稚園や老人施設、障がい者施設などにも慰問に行って『プロレスっていうのが来るよ』って直接触れ合ったりもしています」

 テレビのゴールデンタイムでプロレスが放送されていた昭和の時代と違い、いまは知名度の点からプロレスの地方巡業は厳しくなっているが、九州プロレスでは、どこの町に行っても小さな会場以外では実数で500人以上動員しているというから立派だ。

「東京の団体の人たちは『タダだから来るんだろう』って思うかもしれないですけど、正直、他の団体は招待券配っても全然埋まらないじゃないですか。でも九州プロレスは去年、15周年記念大会を福岡国際センターでやって、本当に4800人来たんです。怪しい『主催者発表』ではなく実数ですよ(笑)。現時点でも観客動員数と収支的なことで言えば、日本のプロレス団体の中では(最大手の)新日本プロレスの次のグループにガッツリ入ると思いますよ」

「ファンだけ相手にする方法は通用しなくなってる」

 こうしてきわめて特異な形で成長してきた九州プロレスだが、TAJIRIは給与面や会社組織だけに魅力を感じて入団を決意したのではく、むしろ九州プロレスが目指しているプロレス自体に共鳴した部分が大きかったという。

「そもそも九州プロレスの目的って、『プロレスで地域を活性化させる』っていうことなんです。僕はそこに『プロレスの本来の目的はこうであるべきだよな』と共鳴したんです。本来のプロレスは、毎回観に来るマニアを相手にするのではなく、大衆に元気を与えるもの。

 今のプロレス団体はどこも常連客を相手にした商売になっていることが多いけれど、限られたファンだけを相手にする方法って、もうとっくに通用しなくなってると思うんですよ。毎回、同じお客さんを相手にしても広がりはないし。それより僕は本来そうであるような、大衆を相手にするプロレスをしたかった。それができるリングが、九州プロレスだったんです」

 九州プロレスに来る観客は、プロレスファンやマニアではなくあくまで一般の人たちが中心。そのため大会の第1試合前に、プロレスのルールをイチから説明するコーナーがある。

「興行の最初に子どもたちを対象にしたプロレス教室があるんですけど、あれがある意味メインイベントですよ。いちばん大事だと思いますね。いま、プロレスは地上波テレビのいい時間に放送しているわけじゃないから、プロレス業界の人たちが思っている以上に一般の人はプロレスがどういうものか知らない。

 たとえば『相手の両肩をマットにつけてレフェリーがマットを3回叩いたら勝ち』なんて知らないんです。でも、他のすべてのプロレス団体の興行は、完全に知ってる前提から始まるじゃないですか。『一般の人たちはプロレスのルールも何も知らない』っていう事実に誰も気づいてないのは、すごく問題だと思います。『反則は5カウント数えられるまではOK』とか、あらゆるプロレスの常識は、外の世界では常識じゃないんですよね。こんなことばかり言ってたらきりがないんですけど、少なくとも九州プロレスの客層はマニアではない一般層なので。そこまで提示してから魅せる必要が絶対にある世界なんです」

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