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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「世界戦でカエル跳び、あっち向いてホイも…」“伝説のボクサー”輪島功一80歳が明かす奇想天外なアイデアの秘密「本当はやっちゃダメなんだよ」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/04/06 17:04
身振り手振りを交えてインタビューに応じるボクシング界のレジェンド・輪島功一。80歳を迎えてもなお“輪島節”は健在だった
輪島さんは「心技体」ではなく「心体技」という持論を持つ。まずは心、そして技の前に体がくる。力仕事をしていてもともと体力に自信はあったが、まずは猛練習でスタミナをつけ、厳しいトレーニングにビクともしない体を作った。
努力と工夫は着実に実を結んだ。デビュー翌年の1969年に全日本ウェルター級新人王に輝き、その年の秋には日本ジュニアミドル級(現スーパーウェルター級)王者に輝いた。見向きもされなかった“遅れてきたルーキー”は、「相手にせざるを得ない」どころかジムの看板選手に成長したのである。
「カエル跳びなんてね、本当はやっちゃダメなんだよ」
1971年10月31日、ついに世界タイトルマッチのチャンスが訪れる。それまで日本人世界王者は8人誕生していたが、階級はジュニアライト級(現スーパーフェザー級)以下の軽いクラスばかりだ。輪島さんのジュニアミドル級は当時、国内では“重量級”と呼ばれ、小柄な日本人には手の届かないクラスと思われていた。
WBA・WBCジュニアミドル級王者のカルメロ・ボッシ(イタリア)は1960年ローマ五輪銀メダリストのテクニシャン。「輪島不利」の予想は当然だった。しかし、逆境をはね返すというミッションは、輪島さんの気持ちを奮い立たせる。どうすれば勝てるのか。輪島さんは頭をフル回転させた。
「ボクシングってのは頭を使わないとダメなんだよ。頭突きじゃないぞ(笑)」
その象徴と言えるのが、のちに輪島さんの代名詞ともなるカエル跳びだ。いきなりお尻が地面につくほど深くしゃがみこみ、カエルが跳びはねるようにしてパンチを打つ。輪島さんはボッシ戦の6ラウンドにこの奇想天外な技を繰り出した。
「カエル跳びなんてね、本当はやっちゃダメなんだよ。ガンとカウンターを打ち下ろされて終わりなんだから。でもね、まさかということをやるわけ。そこに意味がある。駆け引きなんだよ。たとえばちょっといい女がいて口説こうと思ったら、最初はペコペコから始めて相手を油断させるだろ。自分の弱いところを見せておいて、相手が気を抜いたところでバンバン打つ。オレは小さいころから養子に行ってさ、そういうことをしないと生きていけないわけだから。理屈っぽいけど大事なところなんだよ」