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「マジメな選手ほどケガをするんじゃないか」堀江翔太38歳が立てた仮説とは…? まだまだできるのに“サプライズ引退”をかましたワケ
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/03/29 11:08
日本代表でも長らく活躍してきた堀江翔太(38歳)。ラストゲームが迫ってきた
これまでいろいろな競技の取材を続けてきたが、選手が引退を迫られるのは、次のように大別される。
(1)自分が体力の限界を悟ったとき――横綱・千代の富士に象徴される。
(2)チーム競技において必要とされなくなったとき――どんな競技でも、シーズンオフには解雇される選手が出てくる。それがきっかけとなって引退。
(3)セカンドキャリアに進もうとしたとき――ワイルドナイツの後輩である福岡堅樹は医学部に進んだ。
堀江の場合は(3)に該当する。新しいキャリア、トレーニングの分野に早く進みたいという気持ちが強くなったからだという。
これには説明が必要だろう。
“南ア撃破”の前に決断していた首の手術
堀江のキャリアの転機となったのは、2015年2月に首の手術をした時である。W杯イングランド大会は7カ月後に迫っていたが、首の不具合は左腕のしびれを誘発し、左手の握力が9kgにまで落ちていた。
「手術を選んでW杯になんとか間に合わせないとなあ、と思ってたときに、トレーナーの佐藤義人さんと出会ったんです。“ゴッドハンド”と聞いてたんで、なんか仙人みたいな人が来るんかと想像してたら、チャラい人が来て(笑)」
佐藤との協同作業はこのときから始まった。それは首の治療だけではなく、首を支える体の構造の理解から始まった。
それまで堀江はほとんどの選手と同様、ベンチプレスなど身体の前側を中心に鍛えていた。しかし、佐藤のメソッドは違っていた。首と背中の動きのアラインメント、連動を重視し、背骨を支える細かい筋肉に働きかけていく。
「トレーニングを始めて、そういうことやったんか、という感じでしたね。佐藤さんの師匠にあたる人がいて、『首の手術はする必要がなかったかもしれない』と言われたこともありました。つまり、ヘルニアを誘発していた身体の機能的な問題を解決しないと、また同じことの繰り返しになる可能性があったということです」
佐藤との出会いによって堀江の身体は甦り、W杯では2015年の南アフリカ撃破、2019年日本大会での8強進出、そして2023年大会は37歳にして先発のフッカーとして活躍した。