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「血ヘドを吐きながら指した」二刀流棋士・鈴木大介が語る“将棋と麻雀の勝負観”「永瀬拓矢さんはもちろん…」「AIと完全一致はいけない」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byHideki Sugiyama/Takuya Sugiyama
posted2024/03/10 11:01
若き日の永瀬拓矢九段を知る二刀流棋士・鈴木大介九段。彼が語る「将棋と麻雀の勝負観」とは?
「この年になると、端歩突きを考えたり筋違い角を指してみたり、そういった駆け引きもすべて自分の弱さの裏返しだったのかな、と……。羽生さんや藤井さんは、駆け引きなんて考えたこともないと思うんですよ。いかに最善を尽くして美しい将棋を指すか。ただそれだけを念頭においている。羽生さんと初めて対局したときの私みたいに、『先手で困ったな、どうしようかな』と考えているようでは、やはり勝てないですよね」
将棋も麻雀も、大技を狙うスタイルを貫いて
勝っても負けても、個性のない棋士はつまらない――かつての鈴木はプロとしてそんなこだわりを持っていた。だが、ここにきて考え方に変化が生じているという。
「たとえば端歩を突いて、わざと自分で悪くする。それってパフォーマンスじゃないですか。結局、個性を出すためのパフォーマンスはあまり人の心を動かさない。藤井さんの将棋がどうしてあれだけの人に見られているのかというと、真摯に将棋と向き合って、無駄なことを一切省いて、自分のすべてをぶつけているから感動を呼ぶのであって……。『プロとして魅せる将棋を』といった考え自体が傲慢なのではないか、と」
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もちろん、AIの評価が低いとされる振り飛車を鋭利に研ぎ澄まし、気風のいい早指しで猛然と攻める自らの棋風を否定しているわけではない。他者とは異なる“自分の最善”を徹底的に追求して生まれる個性は、むしろ「一番の売り」だと語る。それは麻雀においても同様だ。
「若い世代とは育った時代や環境が違いすぎますから、将棋も麻雀も、大技を狙うスタイル自体を変えることはできない。それでも、見世物的にあえて勝率を下げるようなことは絶対にしません。特に麻雀において、他のプロと比べたときに打牌が異様に見えることもあるかもしれませんが、それは自分のなかで最善を求めた結果なので。将棋の対局と同じように、どの半荘も嘘偽りなくすべてを注ぎ込んで打っています」
「異様な打牌」と批判される? AI時代の麻雀論
将棋における正着や敗着とはやや意味合いが異なるものの、麻雀にも最善手や悪手といった概念は存在する。初歩的な「何切る問題」から明確な優劣がつけがたいものまでさまざまだが、多くのファンの注目を集めるMリーグでは、ひとつの打牌選択が議論や批判の対象になることも少なくない。