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自身のギャラは大幅値下げ、プロデューサー高橋大輔の覚悟…アイスショー「滑走屋」はどこが画期的だったのか? 関係者も“初めて見た”表情
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2024/02/22 11:02
2月9日、「滑走屋」公開リハーサルでの高橋大輔
ハイライトは、グループナンバーの面白さ
ダンサー/振付師Sarry振付による「Figure 8」では、村元哉中がソロで妖艶でセクシーな踊りを見せた。そしてパスカーレ・カメレンゴ振付による高橋の「Flame to the Moth」は、さすがの存在感で目を一瞬たりともそらすことができず、見ごたえがあった。
だがあくまで「滑走屋」のハイライトはスターのソロではなく、グループナンバーの面白さである。全体の幻想的な雰囲気を中断させるような作品は一つもなく、アナウンスはないまま、気が付くとグループナンバーからいつの間にかソロへと夢の中のように移行していった。
誰もが知っているビゼーの「ハバネラ」は、曲はポーランド出身の異色のギタリスト、マーシンのギターアレンジという渋さである。4人のグループナンバーは、インフルエンザで欠場となった島田高志郎の代わりに友野が入り、山本、三宅、友野、最後に高橋が加わって男性4人で踊る黒いフラメンコは圧巻だった。
「あっという間の75分」に見えた高橋の覚悟
高橋の選曲がまた興味深い。これまでアイスショーで一般的に使用されてきた馴染み深いポップミュージックではなく、天才ピアノ少年からオルタナティブ系へと進化したイーサン・ボルトニック、エレクトロニック系のKraddy、プログレ・メタルのペイン・オブ・サルヴェイションなど、重くてダークで緊張感のある曲が全体のトーンを統一している。
寄せ集めではなく、全体のコンセプトをきちんと打ち出した、完成されたショーだった。
あっという間の75分間。これまで世界各国で多くのアイスショーを見てきたが、終わった瞬間また最初から見たいと思ったショーは初めてである。
特に若手たちにとって、この経験は一生の宝になるのではないか。将来たとえ自分自身が滑れなくなっても、プロデューサーとして面白いものを作ってみせる。そういう高橋の覚悟が見えた、「滑走屋」だった。