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自身のギャラは大幅値下げ、プロデューサー高橋大輔の覚悟…アイスショー「滑走屋」はどこが画期的だったのか? 関係者も“初めて見た”表情
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2024/02/22 11:02
2月9日、「滑走屋」公開リハーサルでの高橋大輔
「あれほど厳しい表情の大輔、今まで見た記憶ないです」
もちろんチケットを買った観客のほとんどは高橋のファンであるに違いなく、彼以外にも村元哉中、山本草太、友野一希など国際的に活躍しているトップスケーターも出演した。だが同時に14人のアンサンブルスケーターは大島光翔、櫛田一樹をはじめ、全日本ジュニア、全国高校選手権などに出場しているまだそれほど名前を知られていない若手たちだ。高橋自身が大会に足を運んで、スピード感のあるスケーターを自ら選んだのだという。
アイスショー初体験の若手を選んだのは、後進の育成を意識してのこと。だがそのことを観客にまったく感じさせずに「完成作品」にして見せたのは、高橋のプロデューサーとしての腕だった。
リハーサルを見守っていたある関係者は、「あれほど厳しい表情の大輔、今まで見た記憶ないです」と漏らした。「自分をとことん追い込んでいる、という印象でした」
度肝を抜かれた幕開け
場内が暗くなり、鐘の音が響き渡る。オープニングはSFホラー「ストレンジャーシングス 未知の世界」のテーマ曲で始まった。薄暗い照明の中に黒装束のスケーターたちが一人ずつ登場した。
『マトリックス』風の黒いコートに身を包んだスケーターたちは、全員ヴェネチアのカーニバルのような黒いアイマスクをつけている。さすがに高橋は動きでわかるものの、他は誰が誰なのかよく見分けられない。それだけ若手たちも見劣りせずに、がっちりと振付を自分のものにしているということだ。
これから、まさに「未知の世界」が始まる。そんな予感をさせる、胸の高鳴る幕開けだった。
音楽は他にKlergyの「Hide and Seek」、パワーハウスの「フリオーソ」など、オープニングナンバーだけで5曲を使用。見ていて心臓の鼓動が早くなる14分だった。
振付は「氷艶」で一緒に仕事をした元劇団四季の鈴木ゆま氏が出した動きを、高橋が氷の上にアレンジするという形で行われたという。
個々のプログラムでは、今回は「かなだい」のアイスダンス作品はなく、シングルのソロのみ。山本草太の「Teeth」、三宅星南の「Engraving」、村上佳菜子の「Fire, Physical」、友野一希の「Halston」など、それぞれが普段以上に切れ味の良い踊りを見せたのは、高橋にがっちりと鍛えられたトレーニングのたまものに違いない。