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「クビにしてもらっていい」「俺と社長でカラオケに」ポステコグルーと築いた特別な関係性…黒澤良二マリノス前社長に聞く“プレミア名将の素顔”
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images/Kiichi Matsumoto
posted2024/02/12 11:05
横浜F・マリノスでアンジェ・ポステコグルーを全面的にサポートした黒澤良二前社長。現在もトッテナムの試合は欠かさずチェックしているという
グローバルパートナーシップを結ぶCFG(シティ・フットボール・グループ)とF・マリノスのFootball Strategy(将来の方向性)を議論する際には、ボスからも協力を得ている。クラブのインフラやアカデミーなど自分の考えをまとめてくれた。それが随分と役立った。銀行で働いていた経験もあり、慣れたものだなと感心させられた。
自信を失った選手に「大丈夫、アイツはウォリアーだ」
2018年シーズン途中からチアゴ・マルチンス、畠中槙之輔らボスの戦術と照らし合わせながら補強が進められ、2019年シーズンになるとマルコス・ジュニオール、エジガル・ジュニオ、朴一圭(パク・イルギュ)、ティーラトンらも入ってくる。夏の移籍期間にはエリキ、マテウスも獲得。ボスの意を汲み、クラブも積極的に動いた。CFGのネットワークにも随分と助けられた。
「アンジェは常にチーム統括と強化に対する話はしていて、最終的に僕のところに話がやってくる。アンジェは我々の予算が限られていたことも分かっている。上昇志向のある伸びる選手を見つけてきて育てるのが本当にうまかった。もちろん僕も最後、(契約の)サインをする立場なので、どんな選手か映像で観るようにはしました」
社長自ら補強に口を出したことはないものの、事前に自分の目で確認しておく作業は怠らなかった。黒澤のこういった姿勢に、ボスも信頼を深めたことは言うまでもない。
忘れられないエピソードがある。
ヴィッセル神戸から獲得したタイ代表のティーラトンは“偽サイドバック”という特殊な任務に当初は戸惑いを隠せず、自信を失っていくように黒澤の目には映っていた。
「そのことをアンジェに伝えたら“大丈夫、任せろ。アイツはウォリアー(戦士)だ”と。ずっと使い続けていくなかで、コーチ陣の尽力もあって練習からどんどん良くなって、自信が出てきた。アンジェ自身があきらめなかったし、ダメだから次、みたいな考えが彼にはまったくなかった。そこが凄いところだと思います」
かくして個々の才を引き上げて、陣容がそろったアタッキングフットボールは見事にハマり、前年残留争いに巻き込まれたチームが優勝争いに食い込んでいく。バンバン得点を取る一方で、アグレッシブかつコンパクトな守備によって前年のような失点もグッと減っていく。ボスと最初に話をした「見ていてワクワクするサッカー」が、そこにはあった。