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「クビにしてもらっていい」「俺と社長でカラオケに」ポステコグルーと築いた特別な関係性…黒澤良二マリノス前社長に聞く“プレミア名将の素顔”
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images/Kiichi Matsumoto
posted2024/02/12 11:05
横浜F・マリノスでアンジェ・ポステコグルーを全面的にサポートした黒澤良二前社長。現在もトッテナムの試合は欠かさずチェックしているという
「クビにしてもらっていい」本音で言い合った社長と監督
クラブの社長と、現場の監督。
2人の思いが合致すれば、当然ながら様々なことがスムーズに運びやすくなる。
ポステコグルーを招聘した古川宏一郎に代わり、黒澤は2018年7月30日付で社長に就任。シーズン途中、それも残留争いが現実味を帯びていたころだった。元々サッカーマニアとして社内で知られた存在。バルセロナにある日産モトール・イベリカ時代には、カンプノウでホームゲームがあれば決まって観戦に訪れていた。
ボスと最初に会って話をしたときから、「この人に賭けてみたい」という思いが膨らんだという。
「1974年のワールドカップの話をして、ヨハン・クライフが私のヒーローなんだと伝えたら彼もそうでした。そういった昔のワールドカップのことで盛り上がってからF・マリノスの話になり、優勝してクラブの価値を上げたいと伝えたんです。それも人々が見ていてワクワクするようなサッカーで。彼は“信頼してほしい。任せてくれ”と言ってくれましたね」
時間があれば新横浜の練習場に通い、トレーニングを視察した。ボスとは2人で定期的にコミュニケーションを取った。監督との距離が近いことをチーム内にあえて示す意味もあったという。
「2018年シーズンはなかなか勝てませんでしたから。チームとしてはあまりよくない状態だった。だから練習場で私のほうから監督に近づいていけば、全面的にサポートしていることが伝わるじゃないですか。現場を知ることが大切という自分のポリシーに加え、単純にサッカーが好きだから見ておきたいというのも、もちろんあったんですけど」
何でも話せる関係性。ボスから補強の要望を直接聞いたこともあれば、黒澤も試合に対する感想を伝えたこともある。「もっと守備の練習をしてみたら」と口にして「あんまり言うならクビにしてもらっていい」と不機嫌にさせてしまったこともある。ただ裏を返せば、それほどお互い腹蔵なく意見を言い合えた。
「アンジェはサッカーに対して情熱のない日なんてなくて、試合に負けて一睡もしなかったこともあったと本人から聞いたことがあります。アウェイゲームで新幹線移動する際も、パソコンを2つ用意してずっと映像を見ているんですよね。常にパッションが滲み出ていました」
日々のボスを眺めていれば、余計な口出しは無用だと感じた。心の底からボスを信頼していた。