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「不可解判定で退場」「なんで伊野波があそこに?」長谷部誠の心も乱れた“2011年アジアカップの大事件”「日韓戦の勝敗を分けたのは…」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/01/22 17:11
2011年のアジアカップで4度目の優勝を果たし、トロフィーを掲げるアルベルト・ザッケローニと長谷部誠。同大会も波乱の連続だった
長谷部誠もビックリ「なんで伊野波があそこに…」
グループステージの3試合はすべて中東の国との対戦だったが、アウェイの空気感に包まれることはなかった。しかし、ホスト国カタールと対峙した準々決勝は違った。開始13分、ウルグアイから帰化したセバスティアン・ソリアに先制点を奪われると、1万9000人強の観衆が詰めかけるスタジアムが圧倒的な熱を帯びていく。
この試合の主審は、04年大会準々決勝のヨルダン戦を担当したスブヒディン・モハメド・サレーである。PK戦の途中でゴールを変えるという英断を下した彼だが、今回は日本に厳しいジャッジをすることになる。63分、吉田麻也に2度目の警告を与えるのだ。スライディングでクリアした吉田の足は、相手FWにはっきりと絡んでいた。VARで検証されたとしても、判定は覆らなかっただろう。
その反則で与えた直接FKを、ブラジルからの帰化選手に蹴り込まれる。シリア戦と同じように、数的不利からの失点となってしまった。
残り時間はまだ、30分弱ある。「焦りはなかった」と話した選手がいて、「正直、厳しいと思った」と明かした選手がいた。選手たちは正と負の感情の間で揺れ動き、「もう、やるしかない」と自らを奮い立たせていく。
3点目を与えない。シンプルに前へボールを運ぶ。少ないチャンスを生かす。同点から逆転へのシナリオが整理されていき、71分に香川真司が同点弾を突き刺す。さらに90分、長谷部誠がゴール前の香川へ縦パスを通す。背番号10がペナルティエリア内へ持ち出してDFに倒されると、こぼれ球を伊野波雅彦がプッシュした。内田篤人の出場停止で右SBに入った国際Aマッチ初先発の男が、シーソーゲームに終止符を打ったのだった。
キャプテン長谷部は「なんで伊野波があそこにいたのか、僕にはわからない。ベンチから(前へ)行くなと言われていたし、僕もそう言っていたのに」と笑った。予想外の登場人物が貴重な働きをするのが、アジアカップという大会でもある。
もつれにもつれた日韓戦「勝敗を分けたコイントス」
準決勝は日韓戦となった。アジアカップでは07年大会に続いて3度目の対戦となる。23分にPKで先制されるが、36分に前田遼一のゴールで追いつく。1対1からスコアは動かず、試合は延長戦に突入する。
97分に岡崎の背後への抜け出しでPKを得ると、本田がボールをセットする。左足のキックは相手GKに止められるものの、猛然と走り込んだ細貝萌がプッシュする。カタール戦の伊野波に続いて、バックアップ役の選手が結果を出した。負傷の香川に代わって後半終了間際からピッチに立った細貝が、代表では最初で最後となるゴールを決めたのだった。