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藤井聡太21歳が“八冠保持”より「第一に考えている」ことは…「振り飛車のスペシャリスト」菅井竜也31歳との王将戦で見せた正確無比さ
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/10 17:00
第73期王将戦7番勝負の第1局に臨む藤井聡太八冠(手前右)と挑戦者の菅井竜也八段(代表撮影)
開幕局では「振り駒」が行われる。昨年の8タイトル戦においては、そのうち6局が藤井の先手番となった(結果は5勝1敗)。相居飛車の将棋では、作戦の主導権を得やすいことから先手番はやはり大きい。居飛車対振り飛車の将棋では、先手・後手の違いはあまりないと思う。王将戦は振り駒の結果、菅井の先手番に決まった。
振り飛車党の菅井は、中飛車・四間飛車・三間飛車・向かい飛車と何でもこなすが、最近は三間飛車が主流だ。
藤井叡王に菅井八段が挑戦した第8期叡王戦五番勝負(昨年4月~5月)では、計6局(2局の千日手を含む)がすべて三間飛車だった。第1局で両者は高美濃に玉を囲った。第2局、第3局、第4局指し直し局、同再指し直し局の計4局では、両者は穴熊に玉を囲った。いずれの相穴熊は、それぞれ違う戦いとなった。なお、藤井は第2局で敗れたが、ほかの3局に勝ち、3勝1敗で叡王を防衛した。
第1局1日目、両者は「静」の状況が続いた
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王将戦第1局では、菅井は同じく三間飛車に振って穴熊に玉を囲った。藤井も穴熊に玉を囲った。叡王戦の前記の計4局は、藤井が先に動いて戦いが起きた。しかし王将戦では、藤井と菅井は相手の動きを見ながら駒組み手順を進めていった。水面下では積極的な「動」が見え隠れする手段もあったが、両者は「静」に徹して手詰まりの状況が続いた。
それは、王将戦が2日制・持ち時間が各8時間と長丁場の対局という事情もあったと思う(叡王戦は1日制・持ち時間が各4時間)。第1局の1日目はじっくり指そう、という暗黙の合意があったのかもしれない……。
AI(人工知能)が表示する形勢評価値は、藤井が《53ー47》前後の数値で少し上回っていた。AIが振り飛車に対してマイナス査定しがちな現象によるもので、実際は互角の形勢である。
結局、18時の「封じ手」まで戦いは起きず、菅井が封じて1日目が終了した。
2日目に入って藤井の持ち時間が少なくなったが
2日目の再開直後、藤井が△8六歩と突き捨ててついに仕掛けた。ただ本格的な戦いにならず、ともに歩をぶつけて小競り合いが続いた。菅井としては四段目の銀を前線に進めて攻めたいところだが、自陣の三段目から二段目に引く形となった。長期戦を辞さずの指し方だ。というのは72手目の中盤の局面で藤井の残り時間が30分と少なくなったからで、一方の菅井は2時間近くもあった。押したり引いたりの曲線的な展開にすれば、藤井を残り時間で苦しめられる。
その後、局面が大きく動いた。