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プロ野球PRESSBACK NUMBER
阪神・岡田監督&平田ヘッドが激怒…それでも大竹耕太郎は冷静だった「普通は速い球だと思いますよね」“崖っぷちの左腕”はなぜ再生したのか?
posted2023/12/19 11:03
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Hideki Sugiyama
「『野球、野球』って考えこんじゃうと、意外とひらめいたりしないんです」
昨季までの2年間、一軍で一度も勝てなかった投手が、この1年で12勝を挙げた。ポストシーズンでも自分の役割を全うした。プロ野球人生の危機に陥っていた阪神の大竹耕太郎は独特の世界観を築き上げ、鮮やかな変わり身を見せた。
11月初旬、タイガースが日本一への流れを引き寄せた日本シリーズ第5戦の翌朝、逆転タイムリーの森下翔太や好リリーフの湯浅京己がスポーツ新聞でツートップの主役を張った。多くの選手は短い「雑観」記事にとどまり、先発した大竹もその1人だった。見落としてしまいそうなほど目立たなかった。
5回82球1失点。リードを許したことを考えれば、やはり「雑観」の域を出ない。だが、彼の踏ん張りがなければ、あの「8回の攻防」は生まれなかったのも事実だろう。投げる姿は心を表す。そんな言葉がピッタリなほど、堂々と振る舞っていた。
「怒ってる平田ヘッドが気になっちゃって」
2勝2敗で迎えた第5戦の先発は、日本シリーズの行方を左右する勝負どころであり、浮足立ってもおかしくないのに、リズムよくボールを投げ込んでいった。
これを嫌ったのがオリックス打線である。両軍無得点の3回1死後、1番の廣岡大志が初球を迎える前、打席を外すしぐさを見せた。大竹が5球目を投げる直前も打席を外すと、岡田彰布監督が目を剝いて立ち上がり、ベンチから指を差して激怒した。だが、大竹は冷静だった。
「平田勝男ヘッドコーチも『おい!』ってね。僕、そんなに怒ってもなくて、そっちが気になっちゃって(笑)。要するに『間合いの取り合い』なんですよね。だから、オリックスも僕のリズムに合わせなくちゃいけなくなった時、打席を外す感性があったりして、そのあたりは、本当にいいチームだなと思いました」