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プロ野球PRESSBACK NUMBER
阪神・岡田監督&平田ヘッドが激怒…それでも大竹耕太郎は冷静だった「普通は速い球だと思いますよね」“崖っぷちの左腕”はなぜ再生したのか?
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/12/19 11:03
日本シリーズの行方を占う第5戦の先発を託された阪神・大竹耕太郎(28歳)。今季はリーグでも自己最多の12勝をマークした
オリックスの意表を突いたスローボールの「緩」は「急」あってこそ生きる。大竹はこの日、普段よりも序盤から直球が多く、140km中盤の球を投げ込んでいく。2回は杉本裕太郎の懐に投げて空を切らせた。若月健矢も内角速球で見逃し三振。真っすぐ主体の配球で裏をかいていた。
春先の苦い教訓を生かした。2月、沖縄・宜野座キャンプからアピールに成功し、3試合9イニング連続無失点中と先発ローテーション争いを優位に進めていた。
だが、3月5日、オープン戦のオリックス戦(甲子園)で躓いた。1回は三者凡退だったが、2回に4安打の集中打を浴び、4点を失ったのである。配球は外角に偏り、変化球も多く、一本調子になった。大竹は「かわす投球では通用しないと分からされた試合でした。ちょっと打たれ始めると、怖がって変化球でかわそうとしてしまっていました」と振り返る。
後日、坂本から思いがけないことを打ち明けられた。
「こうなったら打たれるというのを把握しておきたかったから、開幕前までに1回くらい、打たれてほしかった」
集中打を浴びたのは抑えにいった結果である。だが、開幕前の手痛い失敗は大竹にとって自分を見直すチャンスになり、そしてバッテリーにとっては、その時はまだ知る由もない8カ月後の伏線になった。
記憶に残る2年前の大乱調
大竹にとって日本シリーズはトラウマとの戦いでもあった。実は相手がオリックスに決まると、心が揺れた。
「ああ……。オリックスなのか……」
2年前の悔恨を、引きずったままだった。2021年は開幕ローテーション入りを果たし、3月31日のオリックス戦(京セラドーム大阪)で初先発を迎えた。だが、1回に4安打3四球の大乱調で、いきなり6失点。次の登板チャンスは秋まで訪れなかった。
不安が闘志に変わったのは登板前夜である。日本シリーズ第4戦のナイターは自宅のリビングで見ていた。同点の8回表2死一、三塁でピンチを迎えた。テレビは湯浅が1球で抑える姿を映し出していた。