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大相撲PRESSBACK NUMBER
稀勢の里の一言で、元幕下力士の人生は変わった…前田一輝35歳が振り返る、警備員から税理士法人のFPになるまで「満員電車も稽古に比べたら…」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/12/17 17:06
久々の日本出身横綱として昇進後にフィーバーを巻き起こした稀勢の里。その横綱から転職に関して決定的なアドバイスをもらった元幕下力士がいた――
「ある意味、関取に上がらなかったのが良かったかも知れません。僕が十両上がって、関取になっていたら、そういうプライドが邪魔することがあったかもしれないです。ただ、プライドはありませんでしたが、元力士として『こっちは死ぬ思いで稽古をしてきたんだ。バカにされないように働くぞ』という意地はありました」
ビジネスの世界でも相撲道は続いていた。ワイシャツの奥に力士としての意地があった。営業成績はトップクラス。固定客も30~40人ほど。ここまで聞くと押し相撲の営業かと思いたくなるが、そうではない。
顧客目線に立って、仕事も変えた
「肩の力が抜けていたんじゃないですかね。営業マンはみんな営業成績考えて、血走っていましたけど。僕は『不動産が売れないくらい、相撲と比べれば(笑)』みたいにどこか達観していました。営業していても、『買ってください、決めてください』より『お客様が納得して、買うか買わないかの判断してくれれば良い』っていうスタンスでした」
そうして顧客目線を突き詰めると、やがてある課題に行き着く。
「不動産を売るのが仕事なので、そこに注力するのですが、実は不動産は買った後の方が大事です。営業をやりながら買ってくれた人たちはその後が大事なのになって思っていて、このお客様たちの役立つことがしたいと考え、不動産投資の顧客を専門とする今の事務所に移りました。そこでファイナンシャルプランナー(2級FP技能士)の資格も取得しました」
二所ノ関部屋のスカウトも担当
オフィスワーカーとなるきっかけを作った稀勢の里もまた2019年1月に引退し、ネクタイを締めるようになっていた。「親方になる」「力士を集める」「部屋を開く」……。二所ノ関部屋の方向が定まっていくと、仕事をどんどん任されていった。
「相撲部屋の創設に向けて自然とお手伝いする形になっていました。例えばスカウトだと、親方も中卒で横綱になっていて、アマチュア相撲の繋がりもないので、一緒に調べながら弟子を集めています。親方の一番弟子2人は僕が声をかけて、地元の兵庫県から入門してくれました」