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稀勢の里の一言で、元幕下力士の人生は変わった…前田一輝35歳が振り返る、警備員から税理士法人のFPになるまで「満員電車も稽古に比べたら…」 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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photograph byNaoya Sanuki

posted2023/12/17 17:06

稀勢の里の一言で、元幕下力士の人生は変わった…前田一輝35歳が振り返る、警備員から税理士法人のFPになるまで「満員電車も稽古に比べたら…」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

久々の日本出身横綱として昇進後にフィーバーを巻き起こした稀勢の里。その横綱から転職に関して決定的なアドバイスをもらった元幕下力士がいた――

なんのために修業してきたんだ

「大相撲は周囲からも一目置かれるほど厳しい社会。みんなお相撲さんはすごいね、大変だねと言われる世界に10年以上身を置いて。大卒じゃないから、学歴ないから、消去法で職業を選んでいたら相撲の世界が舐められやしないか。なんのために修業してきたんだ。みんなに『さすが元力士!すごい!』と言わせてこそ、相撲界での修業の意味があるんじゃないか」

 元力士・大神風の根底にある意識が横綱として許せなかった。

「他の元力士と同じく、職業選択の幅を自分で狭めてしまっている。厳しい修業に耐えた経験を生かして、いろんな仕事にチャレンジすべきだ」

 その言葉に、どこかもやもやとした気持ちで働いていた29歳は職を辞することを決意する。「スーツを着て仕事をするような、ビジネスマンになれ。自分でお金を稼げるだけのビジネスマンにならなきゃ意味がないぞ」とも告げられた。学歴不問でも、今すぐ始められる仕事。2人はいくつか案を浮かべた後、ある結論に至る。「不動産の仕事は?」。不動産会社を目標に定めた。

俺の紹介で入ったら、お前辞められないぞ

 横綱に紹介してもらおうかと思ったが、「俺の紹介で入ったら、お前辞められないぞ」と凄まれ、ネットで調べ、自ら面接にこぎつけた。当日持参する履歴書を手に入れたものの、書き方が分からない。引退後も連絡をくれた後援会の人を頼って、なんとか書き上げた。力士の経験も評価され、2017年12月に入社を果たす。

「投資用の収益不動産を扱う仕事でした。昔ながらの不動産営業で駅前アンケート、声掛けを行う業務に他の社員は苦労していました。でも僕からしたら、営業も、朝の満員電車も、ずっと立って行う仕事も、朝4時に起きて稽古していたのに比べたらなんの苦労もない。楽しかったです」

ゼロからのスタートに戸惑いは?

 その後、大学を卒業した22歳の「新卒」が会社に入ってくる頃には30歳になっていた。名刺の渡し方も、ビジネスマナーも一から学ぶ初のオフィスワーク。年下に分からないことを聞くこともあった。積み上げてきた猛稽古も白星の数も関係ない1年目。再び序ノ口から始まるような境遇に戸惑いはなかったのだろうか。

【次ページ】 顧客目線に立って、仕事も変えた

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