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大相撲PRESSBACK NUMBER
稀勢の里の一言で、元幕下力士の人生は変わった…前田一輝35歳が振り返る、警備員から税理士法人のFPになるまで「満員電車も稽古に比べたら…」
posted2023/12/17 17:06
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph by
Naoya Sanuki
幕内力士と異なり、一般的にはなかなか伝わってこない幕下で現役生活を終えた者のセカンドキャリア。土俵を去ってから、警備会社、不動産会社、税理士法人で勤務という異色のキャリアを持つ元幕下力士がいる。前田一輝さん、35歳。2016年秋に「大神風」として引退後、警備員となった前田さんが不動産会社へ転職したのは、第72代横綱・稀勢の里(現・二所ノ関親方)がきっかけだった。(全2回の第2回/前回は#1へ)
横綱・稀勢の里は静かに怒った
2015年8月、青森県での巡業。現役晩年の大神風は当時大関だった稀勢の里から朝稽古で胸を借りた時の衝撃は今でも忘れられないという。
「部屋や本場所中で組んできた相手、胸を借りてきた上位の力士ともまったく違いました。同じ人間とは思えなかった。それくらい動かない。その時に、やっぱり、この世界で横綱大関になる人っていうのは別格だと感動しました」
幕下で力士を終えた後も交流は続いた。稀勢の里が新横綱となった2017年3月の大阪場所の場所前に食事をともにした。13日目に日馬富士に寄り倒され左胸と左肩を強打し、緊急搬送された夜も付き添った。休場が続いた横綱から「たまには遊びに来い」と連絡が来て、警備会社に務めていた元付け人は東京に馳せ参じる。
「そこで僕の仕事の話になって。僕は『シフトで自分の時間が取れる』そして『学歴がない』ということを考え、今の仕事を選んだと説明したら……」
相撲界の頂点にいた1年先輩は静かに怒った。「バカか。何を考えているんだ」。缶ビールを片手に真剣な眼差しでこう語りかけたという。