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「羽生さんの将棋がAIに殺されていた」羽生善治は、いかにして藤井聡太から2勝をもぎ取ったのか…「誰も知らなかった」オリジナルの構想とは?
posted2023/11/29 17:00
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
日本将棋連盟
発売中のNumber1085号掲載の[森内九段、深浦九段が見た王将戦]羽生善治「その笑顔は未来を照らす」より内容を一部抜粋してお届けします。【記事全文はNumberPREMIERにてお読みいただけます】
羽生の将棋がAIに殺されている?
レジェンド。
羽生善治がこう呼ばれるようになったのはいつ頃のことだろう。2020年冬、2年ぶりのタイトル戦出場となった竜王戦七番勝負で豊島将之を相手に1勝4敗で敗退した後くらいからではないか。
レジェンドの意味は「伝説的な人物」だ。敬意に満ちている言葉だが、どこか「過去の人」というニュアンスも漂う。
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その竜王戦で敗退した後、羽生は不調のトンネルに入った。2021年度の成績は14勝24敗で、勝率3割台は衝撃だった。棋士人生初の年度負け越しを喫し、29期連続で在籍していた順位戦A級(名人在位も含む)から陥落。指し手に迷いが見られ、駒に伸びもなくなっていた。自分の子どもの年齢のような若手棋士にも屈することが増え、威光は薄らいでいた。このままではタイトル通算獲得100期どころか、出場すら叶わない。その辺りから羽生はレジェンドと呼ばれ始めたのではないか。
「羽生さんの将棋がAI(人工知能)に殺されていた時期だと思います」
羽生とタイトル戦で6回激突し、80局以上も盤を挟んできた深浦康市はこう語る。
2017年くらいから浸透し始めた将棋AIは将棋界を一新した。人間が培ってきた感覚の一部を否定し、新しい価値観を示したのだ。機械の取り扱いに抵抗がなく、AIの指摘を素直に取り入れた若い世代の棋士たちが、ベテランを相手に序盤から優位に立つことが増えた。通算で1549勝(11月15日現在)している羽生は誰よりも対局し、誰よりも勝ってきた。経験は羽生の大きなアドバンテージだが、それが通じなくなってきたのだ。
羽生と同学年で、名人戦の大舞台で9度もしのぎを削った森内俊之もAIの影響を指摘する。
「以前よりも指し手に高い精度と正しさが要求される時代になりました。不調に陥った時の解決策も、昔のような自由なやり方が通用しにくくなっています」
6戦全勝で藤井聡太への挑戦権を獲得
AIとの折り合いをどうつけるのか。誰よりも強大な成功体験がある羽生はもがいていた。暗闇の中に留まり続けるのか。いや、勇者に光は差した。