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「フランス料理マズいでしょ?」フランスの田舎で尊敬される日本人“ミシュランシェフ”がいた…ラグビーW杯で私が出会った「人生最高のガーリックライス」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/11/28 11:05

「フランス料理マズいでしょ?」フランスの田舎で尊敬される日本人“ミシュランシェフ”がいた…ラグビーW杯で私が出会った「人生最高のガーリックライス」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

フランス西部の小都市アンジェ。人口15万人ほどのこの街で、筆者は日本人“ミシュランシェフ”と出会う

 待つこと5分。奥からかなりのイケメンが涼しい顔で登場した。

 メガネが直っていた。しかも、きれいになって。

 安堵したのは言うまでもない。私が「いくらですか?」と聞くと、女性は首を振っている。受け取らないというのだ。押し問答があり、困った私はGoogle翻訳にこう打ち込んだ。「これでコーヒーでも飲んでください」。

 そして私は5ユーロ札をカウンターに置いた。フランスで、久しぶりに出した現金だった。

 彼女は相変わらず困惑していたが、イケメン職人が「仕方がないね」という風情でかすかな笑顔を見せたので、彼女は「じゃあ」と言って受け取ってくれた。

 なんだか、とてもうれしかった。

「危うく、食い逃げ犯になるところだった」

 その週末は濃い時間が過ぎた。アルゼンチン戦の興奮と落胆、その夜のざわめき。

 翌日、私は粛々と記事を書き上げ、午後からはフリーとなった(その朝、五郎丸歩氏へのオンライン・インタビューがあったが、私が時間を間違えるという失態を犯した。五郎丸さん、すみませんでした)。

 そこから気分は解放区である。

 まず、ランチはミシュランで探した「SAIN」という店にチャレンジした。

 こぢんまりしたお店で、器、皿が和風。キャベツを使った料理にはみりんが使われていた。ひと皿ごとに感想を求められるので、私はGoogle翻訳で「繊細な味わいだね」とか、「このお皿は日本で買ったの?」とか感想をスタッフに伝えていると、会話が弾んできた(スマホはフランス語で見せるが、会話は英語である)。

 そして食事が終わると、厨房を預かる兄と、ホール担当の弟のユイトリック兄弟と記念撮影までしてしまった(あまりに会話が弾みすぎ、弟と私は会計するのを忘れてしまった。店を出たところで弟が気づき、私は支払いを済ませた。危うく、食い逃げ犯になるところだった)。

「フランス料理、まずいでしょ?」

 そしてナントからアンジェに移動し、夜8時からは、これもミシュランで見つけた鉄板焼の「KAZUMI」に予約を入れていた。その日、Mくんはルマンに足を延ばし、サーキットや博物館を見学していたので、8時に現地集合とした。Mくんはこの取材旅行でモナコとルマンを制覇したことになる。

 8時まで時間があったので、アンジェでウディ・アレンの新作”Coup de Chance”を見て時間をつぶして、KAZUMIへと向かった。

 ミシュランの紹介にはこうあった。

「この日本料理レストランの店構えは目立たないけれど、その奥には、ボジョレーの伝統的な店で研鑽を積んだ日本人シェフ、カズミ・ハタケナカがいる。彼は日仏二重の食文化の物語を伝えている」

 この翻訳を読み、私は心を惹かれた。ミシュランはこう続いていた。

【次ページ】 「フランス料理、まずいでしょ?」

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