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「フランス料理マズいでしょ?」フランスの田舎で尊敬される日本人“ミシュランシェフ”がいた…ラグビーW杯で私が出会った「人生最高のガーリックライス」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/11/28 11:05

「フランス料理マズいでしょ?」フランスの田舎で尊敬される日本人“ミシュランシェフ”がいた…ラグビーW杯で私が出会った「人生最高のガーリックライス」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

フランス西部の小都市アンジェ。人口15万人ほどのこの街で、筆者は日本人“ミシュランシェフ”と出会う

 以前だったら、買うことを躊躇しただろう。重いし、フランス語だから何が書いてあるか分からない。ところが、いまではGoogle翻訳で瞬時にどんな評価がされているかが分かる(時に、珍訳はあるにせよ)。

 そして本家のミシュランを読み始めると、感動を覚えた。

 フランスの「食」と「宿」がこの小さな世界に凝縮されていた。言い換えれば、フランスの実力が1200ページに詰まっていたのだ。

 それと同時に日本の「ミシュラン」が物足りない理由が分かった。

 ボリュームもそうだが、中身は寸評だけではなく、シェフ、ソムリエの人生が語られている記事が充実していた。そして語られている言葉の、なんと豊潤なことか!

 私はその先に遠征で出向く、ボルドー、マルセイユ、ナント、アンジェ、そしてパリの記事、寸評、評価を読み漁った。

 そして日本がアルゼンチンと戦ったナントと、その近郊のアンジェに目星の店を見つけた。

「ここは、いい街ですね」

 アンジェはナントから快速電車で45分ほどの街。東京の中央線にたとえるなら、東京駅と立川駅ほどの距離感である。

 アルゼンチン戦が行われる週末は、ナントの宿が狂乱物価となっており(1泊5万が相場になっていた)、木曜にマルセイユで三笘薫の試合を見た後、金曜、土曜とアンジェに泊まり、日曜、月曜は物価が落ち着いたナントに移ってから、火曜日にトゥールーズに戻ることにした(この6日間の移動距離はおよそ2200キロ。函館から鹿児島までを新幹線で移動したに等しい)。

 アンジェはフィギュアスケートのフランス・グランプリが行われる場所でもあるが、駅に降り立った瞬間、空気が澄んでいた。Mくんがいう。

「ここは、いい街ですね」

 マルセイユの混沌を見た後だったからかもしれないが、われわれはアンジェに魅せられた。川が流れ、お城、聖堂が鎮座する。

 

「仕方がないね…」フランス人の優しさ

 この街で、私は危機を救ってもらった。マルセイユでメガネのつるを止めるねじが外れ、ピンチに陥っていた(幸い、部品は回収していた)。様々なリスクを想定して旅の準備はしていくが、予備のメガネまでは持ってきていない。どうにかテープで止めてしのいでいたが金曜の夕方、私はアンジェのホテルにチェックインすると、すぐさまメガネ屋さんをGoogleで探し、翻訳アプリにこう打ち込んだ。

「旅の者です。メガネが壊れて困っています。直せますか?」

 カウンターにメガネを置くと、つるが外れ、対応に出た女性がハッと息を飲んでから、奥に下がった。

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