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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
日本人のコワい体験談「フランスの鉄道で強盗被害に…」ラグビーW杯、取材最終日に“まさかのトラブル”「パリで忘れ物したら戻ってこない」は本当か?
posted2023/11/28 11:06
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
さて、この珍道中も最終回となった。
この旅のトラブルは、ほとんどがフランスのせいで「身に降りかかってきた災難」だった。
私はいま56歳だが、果たして還暦を過ぎていたら、これだけむきになってフランスに立ち向かえたかどうかは甚だ疑問である。
ただし2度だけ、自分自身が蒔いた種があった。
ひとつは、9月23日の土曜朝のことだった。私は南アフリカ対アイルランド戦の取材のため、8時28分トゥールーズ発パリ・モンパルナス駅行きのTGVに乗車するため、7時45分に家を出ることにしていた。しばらく家を空けることになるので、生ごみを捨てなければならず、マンションの外にあるごみ集積所に向かった。
フランスは意外にゴミの分別が細かいし、自然環境への配慮は日本より進んでいる面もある(マイタンブラーの保有率は日本よりはるかに高い。メディアキットで配布されたのも、タンブラーだった)。
集積所は建物の外にある。ボタンで扉を開錠し、私はごみを捨てて、地下鉄に向かおうと扉に戻った。と、その時のことだった。
玄関ホールと集積所を隔てる扉が開かない。「これはきっと、鍵のセンサーにタッチしなければならないのだな」と思って、センサーらしきところに鍵をタッチしたのだが――びくともしない。あれ? 私は何度も何度もタッチしたが反応がない。
数十秒経って、私は現実を認識した。
私は閉め出されたのだ。
集積所への扉は、外からは開かない仕組みになっていたのだった。
「柵を越えろ!」「よーーっしゃっ!」
誰かが降りてきてくれれば、助けを求めることが出来る。しかし土曜の朝、学校は休みだし、宵っ張り国家であるフランスの民はベッドのなかで極楽の時間を過ごしている。
3分、5分、空しく時は過ぎていく。このままではTGVに間に合わない。南アフリカ対アイルランドの試合が見られない。迂闊さ、情けなさに涙が出そうになる。と、そのとき、外への回路が見えた。
柵だ。柵を越えろ。