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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「フランス料理マズいでしょ?」フランスの田舎で尊敬される日本人“ミシュランシェフ”がいた…ラグビーW杯で私が出会った「人生最高のガーリックライス」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/11/28 11:05
フランス西部の小都市アンジェ。人口15万人ほどのこの街で、筆者は日本人“ミシュランシェフ”と出会う
試合開始前の20時過ぎ、翌日21時にリヨンでキックオフのオーストラリア対ウェールズ戦の取材申請が突如、「許可」になったのだ。
えっ? 25時間前だぜ。
困った。まさか、このタイミングで認められるとは思っておらず、列車もホテルも押さえていない。調べると、予算重視のイビスホテルが1泊5万円を超えている。嘘だろ……。正直、迷った。それでも、エディー・ジョーンズ氏率いるオーストラリアはフィジーに敗れて崖っぷちに立たされている。これを見逃す手はないかもしれない。そう思って、イビスホテルと12時52分パリ・リヨン駅発の特急を予約した(この列車もきっちり30分遅れた)。
私は流れに乗ることにしたのである。
リヨンでは、エディーさんが場内からのブーイングと、メディアの執拗な攻撃に晒されていた。私はといえば、試合後にUberの車がなかなかつかまらず、市内に戻るのに30ユーロほどの相場のところ、110ユーロを払わなければならなかった。需要と供給の原理をまざまざと見せつけられた。
「フランスに比べるとつまらない」
しかし、リヨンまで行ったことで、私は貴重な思い出を手にすることになる。
まず翌朝、列車に2時間ほど乗り、スイスのジュネーブまで足を延ばした。私にとっての「ワインマスター」が、ジュネーブで子育て中なので、旧交を温めようと思ったのである。
マスターに何年ぶりかに会い、ジュネーブの街に踏み出して驚いた。
東京に似ている。
ゴミは落ちておらず、人々は物静かで整然としている。そう感想を漏らすと、マスターも首肯した。
「物価は高いけど、生活しやすいです。でも、フランスに比べるとつまらないかも」
そうなのだ。ハプニング続きのフランスに慣れてしまったのか、日々、刺激を求めるようになっていた。
ホットチョコレートを飲んで、ジュネーブでの滞在はわずか2時間ほど。それでも「旧交」は一度温めておけば、次が生まれる。それを実感し、私はわが街トゥールーズに帰るために、乗換駅であるリヨンに戻った。
列車まで時間があったので旧市街をぶらぶらしたり、弁当を買ったりして、駅売店を覗いた。そこに赤い表紙の分厚い本があった。
ミシュランだった。
この一冊が、予想もしない出会いを導いてくれることになる。
なぜ日本のミシュランは物足りないのか?
ミシュランは、1264ページもあった。