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「競技人口は約1万人」ブラジルなど“ラグビー不毛のスポーツ強豪国”が本気を出したら…フットボールジャーナリストが考えてみた
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byGaspafotos/MB Media/Getty Images
posted2023/10/28 11:03
日本との激闘を制し、その後準決勝でオールブラックスと対戦したアルゼンチン代表。彼らのような存在がラグビーを世界的競技にするのかもしれない
今大会のプールステージで、50点以上の大差がついた試合が10あった。W杯という世界最高の舞台で一方的な試合になるのは、決して望ましいことではあるまい。
しかし、中堅以下の国が国際大会の経験を積むことはその後の強化にとって重要な意味があるのも事実だ。
かつて、日本もW杯で強豪国にしばしば大敗を喫した。1995年大会では、ニュージーランドに17-145で敗れている。しかし、このようなつらい経験を経て地道な努力を続け、それが2015年大会以降の躍進につながっている。
強豪国となりつつある日本にも課題はありそう
2027年のオーストラリア大会から参加国が24に増えることになっており、大差の試合がさらに増えることが予想される。その一方で、惜しくも今大会出場を逃したアメリカ、カナダ、ロシアにスペイン、悲願の初出場を目指す香港、ブラジル、韓国などにとっては普及、強化への強いモチベーションとなるはずだ。
中堅国の域を脱して強豪国となりつつある日本は、アルゼンチンと並んで世界ラグビーの優等生だろう。とはいえ、日本にもいくつかの課題がありそうだ。
日本のラグビーのトップに位置するリーグワン(1部12チーム、2部6チーム、3部5チームの計23チーム)の母体は企業であり、欧州、オセアニア、南アフリカなどのクラブのように選手育成を担うアカデミーを持たない。従来通り、選手育成は高校と大学が担う(注:フットボールもかつては同じ構図だったが、1993年にJリーグが創設されるとクラブはアカデミーを持つことが義務付けられ、以後はアカデミーにおける選手育成が高校、大学での部活動と同じかそれ以上の役割を果たしている)。ラグビー先進国と同様、本来はクラブが選手育成の主体を担うべきだろうし、少なくとも高校、大学に選手育成を全面的に依存するべきではないだろう。
今後のさらなる発展が楽しみなスポーツ
リーグワンのチームの多くは母体企業の広告宣伝費によって運営されており、独立採算とは言い難い。もし母体企業が引き揚げたら、運営が立ち行かなくなるチームがほとんどなのではないか。
また、さらなるレベルアップを図るためには、野球やフットボールのようにもっと多くの選手が海外の強豪チームに加わって経験を積む必要があるだろう(フランス、オーストラリアなどでプレーした松島幸太朗、ニュージーランドでプレーした姫野和樹、オーストラリアなどでプレーした堀江翔太のような例はあるが、まだまだ少ない)。
このように、世界のラグビーにも日本のラグビーにも少なからず課題はある。しかし、今回のW杯フランス大会は大きな成功を収めており、近年、僕のようにラグビーの魅力に目覚めたファンは多いはず。今後のさらなる発展が楽しみなスポーツと考えていいだろう。