猛牛のささやきBACK NUMBER
「珍しく由伸さんが…」の苦境を救ったオリックス・紅林弘太郎「毎日が地獄」を「幸せなこと」に変えた21歳の試練と成長〈“イジリ”は猛反省中〉
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/21 11:05
勝ち越しのタイムリーを放ちガッツポーズを繰り出す紅林
試合後、紅林はホッとした表情でこう振り返った。
「僕らも、球場全体も、たぶん先制点を取られるというああいう形は予想していなかったと思う。あのままズルズルいくのが一番よくない中で、あそこで同点になって、『まだわからない』という状況になったと思うので、いいところで打ててよかったです」
6回表に再び3−4とリードされるが、その裏、杉本裕太郎のタイムリーで同点とし、紅林が、またも追い込まれてから、外角のスライダーをライト前に運び、5−4と勝ち越した。結果的に8−5で勝利を収め、紅林は3打点で勝利の立役者となった。
開幕二軍の衝撃
振り返れば、今季は苦しいスタートだった。
紅林は高卒2年目だった一昨年、就任1年目だった中嶋監督に見込まれてショートのレギュラーに抜擢され、過去2年間はほぼ不動の存在だった。
「2年連続の最下位からスタートしたチームだったので、我慢してでも中心になる選手を使うというのは決めていました」と中嶋監督。
しかし、チームの成長とともに今年は競争が激化。紅林はキャンプ、オープン戦で調子が上がらず、野口智哉が好調だったこともあり、開幕を二軍で迎えた。
その判断について、中嶋監督はこう明かす。
「キャンプの時から紅林を見ていて、『今年ちょっとキツイかな』と思っていましたが、実際全然上がってこなかったので。そのかわり、野口が今年の最初は非常によかった。もちろんそうなれば競争になりますから」
「自分で勝ち取っていかないと」
「打てるようになるまで、上げんからな」
舞洲に二軍の様子を見にきた水本勝己ヘッドコーチにそう言われ、紅林は自分の置かれた立場を痛感した。
「うわ、もう使われる立場ではなくなったんだなと。もう自分で勝ち取っていかないといけない、危機感を持ってやらないといけないなと思いました」
二軍の高橋信二打撃コーチに新しい練習法を教わったり、配球についてより勉強、研究するようになった。二軍で打撃の調子を上げ、4月18日に一軍に昇格すると、ショートのポジションを奪い返した。
「去年までが何も考えてなさすぎたんですけどね(苦笑)。一昨年から、今年みたいな感じで頭を使ってやれてたらな、という思いはあります」