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「実はめちゃくちゃ怒っていたんです」高橋藍(22歳)が語る“どん底→歓喜の涙”男子バレー激闘の9日間「この景色を藤井さんに見せられてよかった」
posted2023/10/14 11:04
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Kiichi Matsumoto
「まだ、実感がないんですよ」
パリ五輪の出場権を獲得してから2日が過ぎた10月9日、高橋藍は激闘をそう振り返った。
アメリカとの最終戦を終えた直後には、チーム全員でニュース番組に生出演。この日も朝から情報番組に登場し、コートインタビューで話題を集めた『ひき肉でーす!』を披露。いかなる時も笑顔で、時に無茶な要求ですらも楽しそうに応じる高橋への注目度は日に日に増しており、事実インスタグラムのフォロワーも五輪予選(OQT)の大会中に30万人ほど増えて、200万人を突破した。
自身もバレーボールへの関心が高まっていることは感じている。だが、それでもまだ「実感がない」と口にしたのは少し意外でもあった。
「(スロベニア戦は)3対0で勝つしかないという状況で勝って、オリンピックに出られると決まった。めちゃくちゃ嬉しかったんですけど、それ以上に安心、ホッとしたというほうが大きかったからかもしれませんね。楽しかったけど、しんどかった。プレッシャーもあったんだな、と(オリンピックが)決まって初めて感じました」
初めての五輪予選「特別な感情はなかった」
9月30日、女子に続いて男子のOQTが開幕した。その時点では、ただ楽しみしかなかった。
「OQTが始まるという意識はありましたけど、特別な感情はなかったんです。僕の中ではネーションズリーグや世界選手権と同じ。この大会にオリンピックの切符がかかっているのはわかっているけど、緊張感もなかったので、まずは“いつも通りやろう”と。準備もできていたし、調子もよかった。むしろワクワクしていました」
初戦、日本はフィンランドに対して序盤から主導権を握った。高橋もスパイクやサーブで得点を重ね、2セットを難なく連取する。その時点では、1万人を超える観客も含め、会場にいた誰もがストレート勝ちを確信していた。しかし、異変が生じる。
「2セットを簡単に取ったことで、何となくそのまま行けるだろう、とフワッとした空気になっていたんです。チームとしてどうやって点を獲るとかではなく、それぞれが別々にやっているからブレイクが取り切れない。切り替えられたら全然問題なかったと思うんですけど、一度受け身に回ってしまうと1点取れないだけで『ヤバい』と焦りが出始める。
チームにとって絶対的な存在である石川(祐希)選手が不調だったこともあり、今までだったら『ここは石川選手が決める』というところも決まらない。セッターの関田(誠大)選手や(フィリップ・)ブラン監督にも焦りが生まれて、チームとしてどうしていいのかわからないという状況に陥ってしまった。あそこでもっと自分が何とかできたんじゃないか、対処する策を打ち出せれば、という反省は残りました」