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「実はめちゃくちゃ怒っていたんです」高橋藍(22歳)が語る“どん底→歓喜の涙”男子バレー激闘の9日間「この景色を藤井さんに見せられてよかった」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/14 11:04
パリ五輪の出場権獲得に貢献したバレーボール日本代表・高橋藍。「日本であれだけの観客の前でやるのは初めてだったから、嬉しかった」と振り返った
傾いた流れを引き寄せられないまま、第3、4セットを立て続けに取られた。第5セットも日本が10対7と先行しながら連続失点を喫し、10対12でリードされる展開も招いた。まさか初戦を落とすのか。会場が沈み始めた時、その空気を一変させたのが高橋のバックアタックだった。
「関田選手には『僕(バックアタックに)入っているんで』と何回も言いました。そこは取りに行きたかったし、ここだぞ、と。石川選手の調子が戻らず、関田選手もフラストレーションがたまっていたと思うんです。でも、5セット目に石川選手と大塚(達宣)選手が代わったこと、関田選手のマインドも変わった。今、この中で調子がいい選手、ノっているのは誰か冷静にジャッジした時に“藍だ”と思ってほしかったし、僕もそれを決めたかった。あのシーンは日本としての解決策、打開策が見えた瞬間でした」
反省は残るが、何より大きいのは勝ち切ったこと。初戦でこれほど苦しんだのだから、あとは上昇あるのみ。そう前向きにとらえていたが、翌日のエジプト戦でまさかの敗戦。しかも、フィンランド戦と同様に第3セットで崩れての逆転負けだった。
鮮明に思い出すエジプト戦のあるシーン
自らのふがいなさやもどかしさに涙する選手もいる中、高橋は全く別の感情を抱いていた。
「僕、めちゃくちゃ怒っていたんです。あの場面は自分に上げろよ、って。3セット目を取られて、ずっとイライラしていた」
高橋が言う“あの場面”とはエジプト戦の第3セット、22対23で日本がブレイクチャンスをつかんだシーンだ。
前衛の関田に代わって宮浦健人を投入した日本は、西田有志のサーブで崩してチャンスを得る。決まれば同点という状況でトスを上げた石川は、前衛にいた宮浦でも高橋でもなく、後衛中央から入ってきた西田有志のバックアタックを選択した。相手の虚を突くプレーではあったが、結果的に西田のスパイクはネットにかかった。22対24、そのままセットを奪われた。
タラレバではあるが、その1本がもし決まっていたら展開は大きく異なっていたかもしれない。石川や西田を責めるのではなく、そんな緊迫したシチュエーションが怒りを増長させた。
「単純に僕はあの場面で(トスが)欲しかったし、上げてもらえたら決める自信もありました。基本的に僕は常に(トスを)欲しいと思っているし、たぶん僕だけじゃなく宮浦選手も同じだったと思います。石川選手の選択も、2セット目に西田選手がパイプを決めているから、もう一回使ったら決まるんじゃないかと思うのは理解できるし、実際に相手も想像していなかったはずです。
でも、(2セット目の)10点以上離れた場面と、1点を追いかける終盤では状況が違いました。しかも前日に3セット目を落としてあやうく負けるかもしれない試合をしている。リスキーな選択だったし、もっとオーソドックスに両サイドへ高いトスを上げていても、僕も宮浦選手も決める力はある。実際、石川選手も自分で『過去イチやらかした』と言っていた。それぐらい大事だったし、大きい1点でした」
「今でも怒っている」と口では言うが、しかし切り替えの速さは類を見ない。「そこで冷静になれなかった自分にも反省です」と振り返るだけでなく、敗れた直後も控え室で着替えを済ませてバスに乗った時にはすでに完全に吹っ切れていたと笑う。
「負けは負け。じゃあ勝つしかない、と。それだけ思っていました。終わったことを考えてもしょうがない。そう前を向いていました」