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「最後、誰にトスを?」セッター関田誠大に聞きたかった“幻の1本”…男子バレー“まるでドラマ”な伏線回収「司令塔の胸に刻まれた遊び心」
posted2023/10/12 17:02
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
FIVB
「僕なんかに気遣わなくていいんすよ」
パリ五輪予選第4戦の試合後、セッターの関田誠大(ジェイテクトSTINGS)は、少し不満そうな顔で言った。
難敵と思われたトルコを相手に会心の勝利を収め、ミックスゾーンに現れた関田に、完全復活ですか? と聞いた時のことだ。
「いやー、今日のプレーを見ても僕自身ぜんっぜん、まだまだ納得いかない部分が多い。まだできると思います。それに周りの選手を見ても、(ミスした時に)僕に『大丈夫大丈夫』って言って、サポートしてくれる。もちろん嬉しいんですけど、それじゃないんで、僕は。それじゃダメだなと思います。僕がいい時って、絶対そんなのなくて、ミスしても誰も全然気にしないっていうか。そういうところでも感じますね。気を遣われてるようじゃまだまだだなって。僕なんかに気遣わなくていいんすよ。
まあもちろん、相手にブレイクを取られて(日本が)タイムアウトを取ると、ウワーッとなっていた時もあるんですけど、今日の僕はそんなことなく、『いいよタイムなんて』っていうぐらいの軽い気持ちだったんで、それはよかったのかなと思います」
その3日前、エジプトに敗れ、涙を浮かべながらその場を通り過ぎていった姿はもう完全に過去のもの。強気で頼もしい司令塔が戻っていた。
「もっと遊んでいいんじゃない?」
10月8日まで開催されたパリ五輪予選で、日本代表は第2戦のエジプト戦で予想外の敗戦を喫して追い込まれながら、第3戦以降、1セットも落とさない怒涛の復活劇で4連勝し、パリ五輪の切符を獲得した。ジェットコースターのようだった9日間を振り返ると、改めてキーマンは関田だったように感じる。
10月4日に掲載されたコラムでも触れたが、エジプト戦後はどん底だった。責任を背負いこんでいた関田は食事もまともに摂らず、他の選手から距離を置き、1人、部屋にこもっていた。
その関田を1人にさせまいと、チーム唯一の同い年で、パナソニックパンサーズの同期入団でもあった山内晶大や、高橋健太郎(東レアローズ)が部屋に行って話をしたり、翌日には山内と西田有志(パナソニック)が大浴場に誘って気分転換させた。
「それまで僕らが彼に頼りすぎていたし、彼自身、『俺がやらないと。俺が崩れたら終わり。迷惑かけちゃダメだ』と思ってしまっていたと思う。彼、頼るのが下手くそだから」と山内。
だが第3戦のチュニジア戦の前には山内に、「もう、いい意味でテキトーにやるわ。試合中、また顔がこわばってたりしたら言って」と、吹っ切れた表情で頼みごとをした。
ベンチスタートだった山内は、試合中、関田がベンチに戻ってくるたび、「もっと“遊び心”持ってやれ」、「もっと遊んでいいんじゃない?」、「もっと力抜け」と声をかけ、関田は「オーケー」と言いながら、フニャッと大げさに脱力するしぐさを見せた。