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「実はめちゃくちゃ怒っていたんです」高橋藍(22歳)が語る“どん底→歓喜の涙”男子バレー激闘の9日間「この景色を藤井さんに見せられてよかった」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/14 11:04
パリ五輪の出場権獲得に貢献したバレーボール日本代表・高橋藍。「日本であれだけの観客の前でやるのは初めてだったから、嬉しかった」と振り返った
翌日、選手だけのミーティングが開催された。キャプテンの石川が「あとは全部勝つしかない」と切り出し、副将の西田が「いいところを見直して、この舞台を楽しもう」と続く。全員が思い思いの言葉を発する中、高橋はポジティブなメッセージを送った。
「やるしかないし、勝つしかない。考えすぎてもしょうがないから、僕らの本能、やってきたことを信じて、テキトーに行きましょう!」
無意識のうちに頭ばかりで考えすぎて、プレーも発想も縮こまっていた。ならばすべてを解放して、積み重ねてきたものを、己を信じて出せばいい。実に高橋らしい言葉は、日本代表が本来の姿を取り戻す原動力になる。
エジプトに敗れた直後は「負けたら終わり」と落胆する声が相次いだが、レストデーを挟んで迎えたチュニジア、トルコ、セルビア相手にはこれぞ本来の日本の力だとばかりに多彩な攻撃を披露。相手のどんな強打もつなぐ鉄壁の守備も発揮し、3連勝。すべてストレートの完勝だった。
ついに五輪出場に王手をかけて迎えたスロベニア戦、この日ストレート勝ちすれば切符が手に入る。そんな緊迫感からか、出だしは最悪だった。高橋は「泣きそうだった」と苦笑いを浮かべる。
実は焦っていたスロベニア戦「俺、ちゃんとしろよ」
「しょっぱなからミスが多くて、リードを許す流れを石川選手が連続得点で引っくり返してくれた。僕、2セット目も(スパイクで)結構ミスをしているんですよ。自分の感覚はめっちゃいいし、跳べているし、コンディションもいい。それなのに決まらないから『ヤバい』と焦っていた。アウトになったボールやブロックに当たらなかったボールを見直すと、本当にミリ単位の差なんですけど……『おい俺、ちゃんとしろよ』って思いながらプレーしていました」
ただ、高橋を冷静にさせたのは、ここまで積み重ねてきた自信だった。
「今の自分なら大丈夫、俺はやれる、と自分に言い聞かせていました」
挽回のチャンスをつかんだのは、五輪の出場権が目の前に迫ってきた第3セット。15対14と日本が1点リードしたシーンで決めたサービスエースだ。「ここで自分が流れを引き寄せる」と放った渾身の一本で16点目をもぎ取り、さらにこのセットではもう1本サービスエースを決めた。
「あの連続得点で(スロベニアの)心を折った」と振り返るように、関田のサービスエースや石川のスパイクで日本が得点を重ねて24対18とセットポイントに。
勝利まであと1点――高橋は攻撃に入る準備を万全に整えていたが、スロベニアのサーブがエンドラインを割り、25対18。ストレート勝ちを収めた日本は、選手やスタッフが一斉にコートへなだれ込み、抱き合いながら勝利の喜びをかみしめた。